注目の1枚|ラヴェル:バレエ音楽『ダフニスとクロエ』全曲|藤原聡   

ラヴェル:バレエ音楽『ダフニスとクロエ』全曲

アンサンブル・エデス
レ・シエクル
指揮:フランソワ=グザヴィエ・ロト

text by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)

録音:2016年(ライヴ)
録音場所:フィルハーモニー・ド・パリ、シテ・ド・ラ・ミュジーク・ド・ソワソン、コンピエーニュ帝国劇場、セナール劇場、アミアン・カルチャーセンター(以上、フランス)、ライス・ハレ(ハンブルク)、スネイプ・モールティングス・コンサートホール(オールドバラ)
レーベル:harmonia mundi
商品番号:HMM905280

『春の祭典』を初演譜&初演時の楽器により録音して話題を巻き起こしたロト&レ・シエクルの新譜は何と『ダフニスとクロエ』。こちらも初演当時(1912年。ちなみに『春の祭典』1913年)の楽器を用いて「当時の響き」を再現せんとする試みである。一聴して即座に感じ取れるのは響きの原色的な生々しさ(ある種の触覚的な「ざらつき」と言ってもよい)と、それによってもたらされる色彩感、細部まで明晰な音響であり、これがいかにもフランス的である。第1部の序奏や第3部の<夜明け>での微細に変化する弦楽器群(ガット弦的な響きのように聴こえるのだが)のニュアンスと音質、そしてそこに明滅する個別性と融和性が2つながらに生きている木管群(「バッソン」の響きは特に目立つ。この音は現今他のオケでは聴けまい)、<戦いの踊り>や<全員の踊り>におけるクリアで階層的な音響。もうこれだけでこの演奏には生理的快感があって何回でも聴きたくなる。ロトの解釈自体はことさらユニーク、と言うか奇を衒ったものではないが(第1部の<宗教的な踊り>で聴き慣れないvnのアーティキュレーションがあるが)、使用楽器も相まって響きの整理の上手さとリズムの水際立った冴えを聴かせ、それゆえに話題性先行で1度聴いたらそれで終わり、というような演奏にはなっておらず、「初演時の楽器」云々を抜きにしても最近の『ダフニスとクロエ』録音中で特筆に価する名演となっているのは間違いない。

尚、ブックレットには当録音に参加した楽員名、及び弦楽器以外ではそれに加えて一人一人の使用楽器までが明記されているが、これを見ると管楽器群は指定通りの人数、弦楽器は少なめであるようだ。合唱も30人強と少ない(この合唱の混り気のないピュアな声質は特筆に価する)。この曲は名曲ゆえその録音も相当な量に及ぶけれども、繰り返すようだがそれらをあらかた聴き尽くしたようなツワモノが聴いても感銘を受けるような演奏。強力にお薦め。