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ストラヴィンスキー:兵士の物語|藤堂清 

ストラヴィンスキー:兵士の物語

2017年3月18日 東京文化会館 小ホール
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種 Kiyotane Hayashi)(3/18ゲネプロ)

<音楽>イーゴリ・ストラヴィンスキー
<原作>シャルル・フェルディナン・ラミューズ
<翻訳・脚色>安東伸元

<演出>黒木岩寿

<出演>
語り手:安東伸元(狂言方能楽師)
兵士の声:井上放雲(狂言方能楽師)
兵士:KAMIYAMA(パントマイム)
悪魔:ウベ・ワルター(パフォーマー)
ヴァイオリン:荒井英治
コントラバス:黒木岩寿
クラリネット:生方正好
ファゴット:吉田將
トランペット:長谷川智之
トロンボーン:倉田寛
打楽器:高野和彦

<スタッフ>
舞台監督:柴崎大
照明:足立恒(Impression LIGHTING)
映像:立石勇人
音響:河田康雄
大道具:(株)NHKアート

<制作>東京文化会館 事業企画課

 

1918年に発表されたストラヴィンスキーの《兵士の物語》、語り手、兵士、悪魔、7人のオーケストラという小規模な編成で、巡業公演を行うべく作られた。
さまざまな形での上演が行われてきている作品であるが、今回は語り手を務めた安東伸元による翻訳と脚色を用いて日本語で語られ、舞台上の兵士の動きはパントマイムで、兵士の声は狂言方能楽師、井上放雲が務めた。悪魔役はウベ・ワルターが演じかつ語った(日本語で)が、彼の動きやセリフは即興を交えたもので、脱ぎ捨てようとした衣装がうまく扱えなかったときに本来なかった悪態をつくなど、その場で柔軟に対応していた。舞台装置である机や椅子は必要になると兵士や悪魔が運びこむといったように「巡業公演」にふさわしい形。

兵士の持っていたヴァイオリンを巡って物語は進む。当然のことながら、音楽上はヴァイオリンの役割が大きい。今回の公演では、2015年まで長期間にわたり、東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターを務めてきた荒井英治が担当、聴かせどころの<3つの舞曲>などでさすがの演奏を聴かせた。他の6人も在京オーケストラの首席クラスが集まり、音という点は実に安定していた。
語りを狂言方能楽師が行ったことで、よく行われる日本語上演とはテンポもリズムも異なるものとなった。兵士の声もやはり能楽師があてられていたことで、こちらとの受け渡しは自然に行われたが、悪魔がパフォーマーという別の分野から来ているため、語りのゆったりと安定したテンポが乱される。もちろん、そういった齟齬を期待しての配役であっただろう。

舞台上で演技するのは、パントマイムが担当する兵士と悪魔。バレエの振付けはなく、王女の登場はない。冒頭の<兵士の行進>でのパントマイム、歩いているように見せて、その場にとどまるといったところは、通常の公演ではみられない。兵士が全体にカクカクとした動きをするのに対し、悪魔は飛んだり跳ねたり、まったく制約なしに演技する。見ている側にとっても、こういった大きな差異があることが楽しい。

この作品、バレエと語りを同じ人が担う、演奏会で語りのみという形、など様々な上演が行われてきている。今回のような異文化協働型も「もちろん有り」で、興味深い試み、成功していた。
ただ、悪魔役に即興を許しているのだから、作曲された1918年ではなく、2017年にふさわしい時事ネタで毒を撒いても良かったと思う。