エリアフ・インバル指揮 ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団 2017年日本公演|藤原聡

エリアフ・インバル指揮 ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団 2017年日本公演
(東京芸術劇場海外オーケストラシリーズ)

2017年3月21日 東京芸術劇場
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by Hikaru.☆/写真提供:東京芸術劇場

<演奏>
エリアフ・インバル指揮
ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団
五嶋龍(ヴァイオリン)

<曲目>
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64
マーラー:交響曲第1番 ニ長調『巨人』

 

(13日のコンサートは別項を参照)インバル&ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の今回のツアーでは当夜が最後から2番目のコンサート。初日の13日から最終日22日までの10日間に9回のコンサート、相当な強行軍である。しかも初日から東京→高崎→福島→福井→横浜→大阪→名古屋→再度東京(2回)という行程。これで演奏者のコンディションが保たれるのかといささか心配になる。ともあれ、21日のコンサート。

五嶋龍を迎えてのメンデルスゾーンでは、演奏の主導権はほぼインバルにあったと見るべきだろう。構えが大きく、心持ち遅いテンポを採用したサポートに乗った五嶋のソロは、音がやや粗くしなやかさに欠け、表情も練られていないように聴こえる。音程が定まらない箇所も散見されるが、ともすれば「抒情的」と括られてしまうようなちんまりとしたスケールの小さい演奏にまとまってしまわないところは良しとすべきだろう。「退屈な」演奏よりははるかに良い。

休憩後のマーラー。第1楽章ではクライマックスでも音響的開放感があまりなく、さすがに旅の疲れが出ているのかとも考えたのだが、アタッカで突入した第2楽章(インバルがこの曲を指揮する際には常にアタッカだ)が冒頭から粗野で強靭な低弦、弾むリズム、と打って変わって非常な集中を見せ、トリオでのインバル流儀であるデフォルメも冴え渡る。

第3楽章では「フレール・ジャック」主題の頭に付けられたアクセントをしっかりと生かす(というよりも他の演奏がなだらか過ぎるのだろう)のもインバルのやり方であり、それはここでも健在。3部形式に分けられる主部では、中間部に入ってすぐ、オーボエの哀愁に満ちた旋律に被さるトランペットも同様にその入りを強調したり、とかなり動的な演奏であり、全体に楽曲の各部分のテンポや楽器パート毎のコントラストが明瞭である。それがこの楽章に何かぎこちなくグロテスクな印象を付与するのに寄与している。こういう演奏を聴くと、やはりインバルのマーラーに対する「適性」と言うか、その異形の書法に対する体質的な親和性を感じないわけにはいかない。

そして終楽章。ここでの彼らはさらに激烈であり、まるで火を吹くかのようだ。これが都響であればさらにシャープな響きで直線的に切れ込んでくるのだろうが、とにかくオケの重量感とずっしりとした質感がすさまじい。強弱の対比が激烈で、ここでもアクセントは強靭だ。この調子で進められる演奏でコーダがどういうことになるかは想像が付くが、果たして当夜の演奏はさらに想像を超えていた。オケの音の重さがプラスに作用し、かつてないほどの豪壮な演奏となっていたのだった。指定通りにホルンを起立させ(「オプション」のトランペットとトロンボーンも)、演奏と相まってその効果がここまで生きた演奏もなかったように思う。ここに来て、演奏者の強行軍による疲れなど全く感じられないものとなっていたのは言うまでもない。演奏後は文字通りの大喝采、インバルのソロ・カーテンコール1回。この指揮者はますます健在である。

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