ウィーン便り|ウィーンの日本庭園(1):シェーンブルン宮殿|佐野旭司

ウィーンの日本庭園(1):シェーンブルン宮殿

text & photos by佐野旭司 ( Akitsugu Sano)

ウィーンで冬を迎えるのはまだ2回目だけれど、それにしてもこの冬の気候はさすがに異常ではないかと思える。1月には大寒波が来て、氷点下になるのが当たり前なくらい連日寒く、スキー用のセーターにヒートテックのシャツを着てもしのげるような寒さではなかった。友人が今ウィーンは世界で一番寒いのではないか、と言っていたのを覚えている。特に休日のドナウ川の光景にはさすがに驚いた。今住んでいる場所から中心地に行くには必ずこの川を渡るが、ドナウ島Donauinselの辺りは真っ白な氷で覆われていて、休日には大勢の人が川の上でスケートをしていた。電車の窓からそれを見た時は思わず目を疑って途中下車したくらいだ。
ところが2月に入るとそんな寒さがまるで嘘のように暖かくなった。最高気温が10℃を上回る日もあり、しかもこの文章を書いている3月4日現在、最高気温は18℃だそうだ。日中は冬用のコートと長袖シャツを着ていればセーターなしでも十分過ごせる。(それでも夜はさすがに寒くなるが。) そしてドナウ川の氷もだいぶ溶けてしまった。このまま冬が終わってくれればいいと思っているが、ウィーンの冬はそんなに甘くはないだろうか…

さて連日そんな暖かさなので、先日2か月ぶりくらいにシェーンブルン宮殿の庭園を散歩してきた。シェーンブルン宮殿といえば、ウィーンでも代表的な観光地で、旅行に来たことのある人ならば誰でも一度は訪れたことがあるだろう。宮殿の内部は公開されており見学もできる。またこの庭園は1.7㎢もあり、今はまだ殺風景だが、これから春になったら花も咲いて木の葉も茂り、観光をするにはちょうど良い季節になるだろう。ここにはグロリエッテ、ネプチューンの泉、迷路庭園、動物園(現存のものとしては世界で最も古い)、世界各地の植物を集めた温室など、見どころがたくさんある。
そんな中でこの広大な庭園の片隅には小さな日本庭園がある。ちょうど動物園の入り口と温室の間にある一角で、庭の中に立ち入ることはできないが見学は無料でできる。ただ、あまり目立たずひっそりと佇んでいるので注意して歩いていないと素通りしてしまいそうなくらいだ。まさに隠れた見どころといえる。
この庭園については日本語でも説明が書いてあり、それによれば1999年5月に修復が完成したらしい。つまりここが公開されるようになったのは比較的最近のことである。また某ガイドブックによればこの庭園はもともとシェーンブルン宮殿の造園係がロンドンの国際庭園博覧会で日本庭園を見て影響を受け、1913年頃に作ったと言われており、その後忘れ去られたのを近年になって偶然発見され、修復するに至ったそうだ。シェーンブルンの庭園そのものは幾何学的な形で、芝生に覆われ、またあちこちに噴水があり、いかにも西洋の庭園だが、その中でこの小さな日本庭園はまさに異質な空間といえる。
庭の片隅、ちょうど動物園の切符売り場の向かいには竹でできた門があり、庭全体は竹の塀や柵で囲まれている。そしてその門の向こうは茶庭を思わせる作りになっており、しかも腰掛待合まである。もちろんこの先には茶室があるわけではなく、砂利が敷き詰められており枯山水を再現した作りになっている。同じような枯山水は庭の反対側にもあり、さらにその2つの枯山水の間には大きな池もある。この池の周りには曲がりくねった松の木が何本もあり、また小さな庭石もたくさん置いてある。余談だが、先日ここに行ったときは(掃除のためか)宮殿の他の場所にある噴水の水が抜かれており、そのせいか普段は噴水にいるはずのマガモが日本庭園に集まっていて池で水浴びをしているという、何とも珍しい光景を見た。
その他にも、2つの枯山水の脇にはそれぞれつくばいと筧(かけひ)が置かれ、また腰掛待合のそばには石灯籠もある。しかもつくばいのうちの1つには九曜の紋が彫られており、なかなか芸が細かい。このように狭い庭の中に日本庭園の様々な要素が併置されており、総体としてはいかにも日本的な雰囲気を作り出している。ただその中で庭のあちこちには大きな杉が何本も生えており、こういうミスマッチなところはいかにも“ヨーロッパの日本庭園”らしい。

ウィーンにはこのように日本の文化に触れることのできる場所が他にもある。カールスプラッツKarlsplatzのそばには「日本橋」という名前の日本料理店があり、またアン・デア・ウィーン劇場An der Wienの近くには「日本屋」という店があり、ここでは日本の食材を買うこともできる。そして日本庭園もシェーンブルン以外にもまだある。特に日本庭園については、今後機会があったらまた紹介したい。

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佐野旭司 (Akitsugu Sano)
東京都出身。青山学院大学文学部卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程および博士後期課程修了。博士(音楽学)。マーラー、シェーンベルクを中心に世紀転換期ウィーンの音楽の研究を行う。
東京藝術大学音楽学部教育研究助手、同非常勤講師を務め、現在東京藝術大学専門研究員およびオーストリア政府奨学生としてウィーンに留学中。