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NHK交響楽団第1856回定期演奏会|齋藤俊夫

NHK交響楽団第1856回定期演奏会

2017年2月11日 NHKホール
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by by 林喜代種( Kiyotane Hayashi)/撮影:2月12日公演

<演奏>
NHK交響楽団
アコーディオン:クセニア・シドロヴァ(*)
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

<曲目>
アルヴォ・ペルト:『シルエット――ギュスターヴ・エッフェルへのオマージュ』(2009)(日本初演)
エルッキ・スヴェン・トゥール:アコーディオンと管弦楽のための『プロフェシー』(2007)(日本初演)(*)
(アンコール)セルゲイ・ヴォイテンコ:『リベレーション』(*)
ジャン・シベリウス:交響曲第2番ニ長調

 

北欧新調性主義の大家・ペルトと、そこにおいて確固たる地位に位置するトゥール、そしてこの楽派の源流たるシベリウスというプログラムに期待して臨んだ。

しかし、ある程度予想はできていたとは言え、ペルトにはかつての『ヨハネ受難曲』のような一音たりとも動かすことのできない、完璧に彫琢された音楽はもう書けないということをまず確認させられてしまった。序盤と終曲こそ静謐な「ペルト・サウンド」とでも言うべきものだが、大部分はベタベタのロマン主義的な弓奏とつまずき歩くようなピチカート、それにいくらかのアクセントとしての打楽器。どこがエッフェル塔のイメージなのかわからず、そしてそのこと抜きでもどこにも音楽的必然性は感じられない。これがあのペルトの現状か、と悲しい思いをした。

次のトゥールも1990年代の『クリスタリサティオ』『レクイエム』のような輝きは遠くなってしまった。アコーディオンとオーケストラによる速いパッセージとロングトーンが細切れで現れ、反復音型が全体を支配しているのだが、前進しているのか停滞してるのかわからず、ひたすらに鬱屈し屈託した音響が会場を包み、そのその鬱屈が最後まで発散・解消されることはない。アコーディオンのカデンツァも内攻的で解放感は微塵もない。ただの調性とも無調とも旋法とも違うような謎めいた調的感覚は確かに珍しいものだったかもしれないが、しかしどうにも気持ちの持って行きようがなくなってしまった。

しかしメインのシベリウスの『交響曲第2番』は素晴らしかった。第1楽章、軽やかな舞曲のような出だし。速めのテンポにさらにアッチェレランドが加わり爽やかに駆け抜ける。しかしフォルテシモでは雄大なスケールの音楽を聴かせてくれる。第2楽章はまさに北欧の曇天と荒天のよう。淡々としたピチカートから激しいトゥッティへ。弦楽が葬送曲のようにひそやかに奏されそこにトランペットの音が垂直に突き立てられる。そして第3楽章はなんといってもオーボエソロが素晴らしかった。柔らかく、そして澄み切った音色による優しく美しい旋律。第3楽章からアタッカで繋げられる第4楽章は弦楽のダウンボウとアップボウの音色の違いを明瞭に意識したアーティキュレーション、そしてそこに差し込まれる金管の輪郭のはっきりした音。最後の副次主題の反復によるクレシェンドからのフィナーレの高揚感、これこそまさにこの曲の真骨頂である。このシベリウスに出会えたことはまさに僥倖、十分満足して会場を後にした。