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日本フィルハーモニー交響楽団 第687回 東京定期演奏会|藤原聡

日本フィルハーモニー交響楽団 第687回 東京定期演奏会

2017年1月20日 サントリーホール
Reviewed by 藤原聡( Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
指揮:ピエタリ・インキネン

<曲目>
ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調 WAB.108

 

インキネン&日本フィルのブルックナーと言えば、2015年の4月に『第7番』が演奏されたが、それは遅めのテンポを基調にした非常に清澄なものだったと記憶する。いわゆる重厚さとは無縁だが、大変に美しい演奏だった。そして、当夜は『第8番』。

ここでまず印象的なのは、テンポの相当な遅さである。しかも、基本的にインテンポで無用にオケを煽らない。そして、響きは丸く鋭角的ではない。このような演奏は下手をすると非常にノッペリとして退屈なものになりかねないリスクを伴っていると言えるが、インキネンと日本フィルは、部分的な不満はあれどかなり健闘していたと思う。その理由は、恐らくフレージングの工夫や巧みな音量変化によるものと考えられる。これがあるから、「ただ遅い」という印象には繋がらずに、全体としての雄大な印象と各部分の個別の印象が無理なく融合出来ている、ということだろう。それは特に長大なあのアダージョを聴けば理解できるが、要は「木を見て森も見る」。

しかし、不満がない訳でもなく、スケルツォなどはいささか主張が弱い。声部バランスを調整するインキネンの力量には脱帽するのだが、整え過ぎて妙にチンマリしてしまっている。また、第4楽章では第2主題と第3主題の提示やその経過句の扱いがここでもなだらか過ぎる気がした。初日ということもあるだろうが技術的な粗も若干目立ち、その最たるものは第4楽章最後の「ソミレド」が大きくずれてしまったことか(恐らくインキネンの振り方に問題があったのだろう)。

総じて、インキネンの目指す音作り――堅固で構築的、大伽藍のような「意志的な」音楽を作るのではなく、自然の中を逍遥するかのような作為のない(ように感じさせる)透明な音楽――は理解でき、それは大変に新鮮に聴けたけれどもまだ発展途上という印象が大きい。インキネン&日本フィルの今後の度重なる共演においてその関係性がさらに練り上げられた暁には、その音楽の完成度と説得力は大きくアップして行くに違いない。