注目の1枚|ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98他|藤原聡

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98
同:第3番 ヘ長調 作品90

北ドイツ放送エルプ・フィルハーモニー管弦楽団(旧称:北ドイツ放送交響楽団)
指揮:トーマス・ヘンゲルブロック
録音:2016年11月16日~19日、エルプ・フィルハーモニー・ハンブルク
商品番号:88985405082(輸入盤)/オープン価格
     SICC30423(国内盤)/¥2,808(3月1日発売)

text by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)

この1月に杮落としが行なわれたハンブルクの新ホール、「エルプ・フィルハーモニー・ハンブルク」(設計はヘルツォーク&ド・ムーロン、音響は「我が」永田音響設計)で昨年11月に行なわれたセッションで、このホールでの録音第1弾(ジャケットにも明記されている)。これはヘンゲルブロック&北ドイツ放送エルプ・フィル(以下NDRエルプ・フィル)によるブラームス:交響曲全集の第1弾だが、事前情報を知らずにプレイヤーをスタートさせるといきなり驚くに違いない。「別の曲が入っているではないか」。ヘンゲルブロックは、交響曲第4番で「序奏」を復活させているのだった。

ご存知の方もいようが、『交響曲第4番』の冒頭には4小節の序奏を付ける案があった。しかし、結局は作曲者自身が不採用としたのである。この序奏の和声進行が第1楽章終結部と同様であることから、ブラームスらしく周到にそれを予告しようとしたのか――つまりは楽曲の統一性を意識して書いたのではないか、という意見がある。しかし、あの魅力的な第1主題がいきなり弱拍で登場する現行版に慣れた耳からすれば、この何の変哲もなさそうな序奏が仮にロジカルに考えられたものだとしても、開始としてのインパクトにはいささか乏しい気がする。結局、序奏の不採用は正解だったのではないか(と、天下の大ブラームス様の判断を上から目線で言うのもおこがましいですが…)。皆さんも聴いてみてご判断下さい。

しかし、当盤の価値は何も序奏の復活だけにあるのではなく、演奏自体もまた秀逸なものだ。各パートに与えられたリズム形をクッキリと表出し、マスの響きで聴かせるのではなくあくまで明晰な音響体として構築しなおしたかのような『第4番』。しかし、感情表出も担保にされない(細かい話だが、第3楽章のトライアングルが録音のためか相当聴こえにくいのは残念。打楽器使用に対して禁欲的なブラームスが4曲の交響曲中ティンパニ以外で例外的に使用しているのがこの楽章のトライアングルであるだけに…)。その「明晰さ」が終楽章のパッサカリアでより生きてくることは言うまでもない。

『第3番』は心持ち速めのテンポが快い。ここでもバスや中声の支えの上に高弦がどう絡んでくるのか、という事が手に取るように分かる第2楽章(逆に書けば、作曲者が「美メロ」をあからさまに聴かせるのを阻むかのように敢えてうねうねと絡ませてくるvaやvcの内声)の多層性。そして意外にも第3楽章では遅めのテンポを採用してリズムも微妙に揺らす。このギャップがいかにもヘンゲルブロックだろう。終楽章のコーダは湿っぽくならずに清新な表現が良い。

この2曲を聴く限り、残る『第1番』と『第2番』(前者は2012年の来日公演で演奏されたが、非常に優れた演奏であった。この曲からまだこれだけ新鮮な表現を引き出せるのか、と)にも大いに期待が高まる。