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Books | ピアニストが語る! 作曲家の意図は、すべて楽譜に!|谷口昭弘

ピアニストが語る! 作曲家の意図は、すべて楽譜に! 現代の世界的ピアニストたちの対話 第三巻

 溥(チャオ ユアンプー)著、森岡  
アルファベータブックス
201612月出版 3,700+税

text by 谷口昭弘 (Akihiro Taniguchi)

著者の焦は台湾生まれ。母国とアメリカで外交や国際関係を学び、その後イギリスで音楽学を学んだ。現在は著述家、研究者、音楽ジャーナリストの肩書を持ち、音楽祭の企画のほか、10冊あまりの著作を発表している。
本書は基本的にピアニストへのインタビューを集めたもので、全体は3部からなっている。第1部はアジアの、第2部はフランスの、第3部はアメリカのピアニストを取り上げている。

第1部のインタビューは中国生まれのフー・ツォン、イン・チェンツォン、韓国生まれのケン=ウー・パイク、台湾生まれのチェン・ピシェンなど5人を扱っているが、まずは一人一人の音楽家が歴史の渦の中に生き、一遍の映画の題材にもなりそうな劇的な人生を歩んできたことに感銘を受ける。ダン・タイ・ソンはフランスの植民地だったベトナムでクラシック音楽に触れ、その後ベトナム戦争の戦禍に巻き込まれる。疎開したハノイ音楽院では、たった1台の粗末なピアノで1日20分の練習しかできなかった。ケン=ウー・パイクは北朝鮮に危うく拉致されそうになったが何とか逃げ延びた。またチェン・ピシェンはドイツに行ってから「名教師」との間で苦悩の日々を過ごすことになった。いま、これらの国々に生まれる音楽家はどういった境遇でヨーロッパ音楽を学ぶのか、ということについて関心を持つと同時に、近隣諸国の歴史と文化に対する己の無知を恥じた。

もちろん音楽的な内容にも学ぶべきことは多い。例えばダン・タイ・ソンが述べるような、ピアノを「歌わせる」方法について。実際として、どういったことが演奏家にとって必要なのか・可能なのかといったことはピアニストであれば誰しも考えるべき問題であると思うが、現実にはピアノを「弾く」ことでとどまってしまう危うさがあるからこそ、こういった問題意識を多くのピアニストが共有してきたのだ。

第2部では、ピエール=ロマン・エラールやロジェ・ムラノが話す、20世紀後半音楽を代表する作曲家・演奏家たちとの出会いと親交に関して興味が湧く。エラールがイヴォンヌ・ロリオから学んだこと、独創的な発想を持つリゲティのこと、9・11の時に「テロリスト擁護」とみられる発言をしたとして非難を受けたシュトックハウゼンのこと。ムラノは、信仰深いメシアンと、彼ほどの信仰を持たない者が彼の音楽にどのように接していくのかという問題に触れていたのが興味深かった。そのほか冷戦下のモスクワに学んだブリジット・エンゲラーの受けたスタニスラス・ネイガウスが行う「音楽第一」の厳格なレッスン、ロシアのピアニズムなどピアニストの系譜や音楽的影響の伝播など。インタビュアーの焦が持ち出す問いの深遠さ、彼の音楽に関する造詣の深さにも感心させられる。

第3部では、バッハ演奏の歴史と視座を提供するロザリン・テューレック、ピアノにかじりつくのではなく幅広い視野にたって音楽に臨むべきことをホロヴィッツから学んだバイロン・ジャニスなど。そういえばアメリカの音楽家について、日本ではずっと軽視されたことについても思いを馳せることができた。

この本は「ピアニストが語る!」というシリーズの第3弾である。前々からそんなシリーズがあることは知っていたが、シリーズからの1冊を読んだのはこれが初めてだった。以前刊行された2冊を、すぐにでも買いたくなった