ザ・フィルハーモニクス|佐伯ふみ
2016年12月9日 東京芸術劇場
Reviewed by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
<演奏>
ザ・フィルハーモニクス
ティボール・コヴァーチ(Vn)
セバスティアン・ギュルトラー(Vn)
ティロ・フェヒナー(Vla)
シュテファン・コンツ (Vc)
エーデン・ラーツ(Cb)
ダニエル・オッテンザマー(Cl)
クリストフ・トラクスラー(Piano)
<曲目>
チャイコフスキー(コンツ編):バレエ音楽「くるみ割り人形」より「ロシアの踊り」
クライスラー(コヴァーチ編):ウィーン小行進曲
ピアソラ(ギュルトラー編):ミロンガ・ロカ
ガーシュイン(コンツ編):冬の「サマータイム」
ブラームス(コヴァーチ編):ハンガリー舞曲第6番 変ニ長調
アレヴィ(ノイフェルト/コヴァーチ編):「ユダヤの女」よりエレアザールのアリア
サン=サーンス(マンシーニ/コンツ編):「動物の謝肉祭」より“象”
***
マーティン(ブレイン/ギュルトラー編):メリー・リトル・クリスマス
フェリシアーノ(ギュルトラー編):フェリス・ナヴィダ(クリスマスおめでとう!)
ギュルトラー:救い主とヴァイオリン
バッシ:リゴレット幻想曲
フレディ・マーキュリー(ギュルトラー編):ボヘミアン・ラプソディー
サティ(ギュルトラー編):グノシエンヌ
マンチーニ(コンツ編):ピンク・パンサー
巧い! そして、とにかく楽しい! 謳い文句は「ウィーン・フィル公認のスーパースター軍団、待望の再来日! 時代とジャンルを超越した、驚愕と興奮の音楽体験!」……確かに。
前半はかっちりとクラシック寄りの名曲(なるほどと感服するような達者なアレンジと即興を加えて)を聞かせ、後半はクリスマスにちなんだ2曲からスタート。今年から加入し日本公演は初めてというギュルトラー(第2ヴァイオリン。2008年までウィーン・フォルクスオーパー管コンサート・マスター)が、オープニングではロシア民謡を力強く歌いながら登場し、後半ではオリジナル曲をドイツ語と日本語で熱唱(曾祖母がオーストリア人と日本人のハーフだという)。他にも彼のアレンジ曲がいくつか並んで、大活躍。
ギュルトラーの歌は、まぁご愛敬という感じではあるのだが、ぬくもりのある音楽で、とつとつとした日本語もあいまって好感度高し。ともかく、メンバー皆がそうだが、才人ぶりにはほとんどあきれるばかり。
ただ、この曲のインパクトが強すぎて、このあとの音楽につなぐのが難しかったかも。筆者はここでいったん集中が切れてしまい、次の『リゴレット幻想曲』では音楽に入っていけず、サティに至ってはアレンジがはっちゃけすぎでちょっと引き気味。客席の反応も多かれ少なかれそのようだったかもしれない。エンターテインメントは難しい。単純に、後半が少し長すぎたのかもしれないが。
とはいえ、奏者それぞれの至芸をこれでもかと堪能できただけで十分に満足。第1ヴァイオリンのコヴァーチ(ウィーン・フィル第2Vn首席)は最年長らしい落ち着きで、ともかく音が繊細で美しく、よく歌っていて聴き惚れた。クラリネットのオッテンザマー(ウィーン・フィル首席)も大活躍、名人芸。ほかに凄みを感じるほど巧く、存在感が大きかったのが、コントラバスのエーデン・ラーツ(ウィーン・フィル首席)。センスのよいベースがいるかいないかで音楽の質がまるで違ってくることを再認識した。
あいまのMCでの松田暁子さんの通訳がうまく、あたたかな心遣いに好感をもった。