長原幸太・宮田大・田村響|丘山万里子
2016年12月23日 所沢市民文化センター ミューズ アークホール
Reviewed by 丘山万里子(Mariko Okayama)
写真提供:Tokorozawa MUSE
<演奏>
ヴァイオリン:長原幸太
チェロ:宮田大
ピアノ:田村響
<曲目>
ハイドン:ピアノ三重奏曲 第39番ト長調 Hob.XV:25「ジプシー・ロンド」
コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 op.7
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ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第7番変ロ長調 op.97「大公」
ハイドンて、こんな素敵な音楽だったかしら。
と、吸い寄せられたのも、この若手三人衆だったからこそ、だろうか。
ヴァイオリンの長原は東京藝大、ジュリアードに学び、1998年日本音楽コンクール最年少優勝、2014年から読響のコンマス。チェロの宮田は2009年ロストロポーヴィチ国際チェロコンクールで日本人として初優勝、桐朋音大からジュネーブ音楽院、2013年クロンベルク・アカデミー修了。ピアノの田村は2007年ロン・ティボー国際コンクールの覇者。ザルツブルク・モーツァルテウム音、大阪音大に学ぶ。
広範に活躍する30代のホープの颯爽トリオである。
ハイドンは青春ただ中。いや、それぞれ30代に足をかけ(長原は30代半ば)、20代までのその季節を、そっと振り返って愛惜するような、何とも言えない余情に満ちた佇まい。
冒頭のピアノの愛らしいテーマのコロコロとまあるい粒の転がりに、優しく声を合わせてゆく弦。それが実にしのびやかで可憐。変奏も友達の輪みたいに回ってゆく。
第2楽章ポコ・アダージョがまた、甘く切ない歌をしんみりと聴かせ、ピアノと弦のハーモニクスが絶妙。ピアノに寄り添い、決して過剰にならない情感をほのかに香らせる。上品なロマンティック・ハイドン!
ピアノというパーカッシヴな楽器は、ともすると弦2丁を押さえ込みになりがちだが、田村は出す、出さないが適量。変に主張せずに「そこに居ること」をはっきり判らせるヴァイオリンとチェロの鳴らし加減も見事。つまり、3者の響きの調和の幸福な三角錐がここにはある。
タイトルに『ジプシー・ロンド』とあるように、第3楽章のロンドはロマのダンスの旋回と足踏みが聴こえて来るノリノリの演奏、胸すく若さの爆発で「ブラボー」がかかった。
ヴァイオリンとチェロの二重奏、コダーイは、その流れを受けた形で、民族色豊かな野太い音楽をがっしりと弾き進む。第1楽章、ピッチカートを背景に入れ替わり立ち替わり継がれてゆく歌の手渡し、やりとり、シーンの変化に伴う「間合い」の取り方のうまさ。第2楽章、宮田のチェロの柄の大きさに、長原はあくまで濃やかに応え、もう少し出しゃばってもいいのに、と思う向きもあろうが、私は断然このヴァイオリンの繊細な持ち味を買う。こういう陰影を生み出す筆のふるい方、そのセンスを買う。
プレストでは両者抜群の切れ味と野性味をぶちまけた。
「大公」第1楽章、ピアノがはろばろとしたテーマでこの曲の全体の構えを示し、ベートーヴェンらしい気概が立ち上がる。第2楽章スケルツォはサラサラ流れる小川を小魚がピチピチ跳ねるような生気に富んだ表情が小気味良い。
第3楽章のカンタービレ、こちらはハイドンのロマンとはまた違った趣で、色合いは深々と、歌い口は切々と。三者三様の音の色彩がにじむように重なって、ベートーヴェンが抱いていた永遠の憧憬が夢見るように描き出された。
終楽章、たくましい推進力で突き進み、最後の追い込みのアグレッシブなこと、このトリオのパワーを存分に開け放ち、音楽を宙に高々と放り上げた。