日本フィルハーモニー交響楽団 第686回 東京定期演奏会|大河内文恵
2016年12月9日 サントリーホール
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 山口敦/写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団
<演奏>
日本フィルハーモニー交響楽団
飯守泰次郎(指揮)
千葉清加(ヴァイオリン)
辻本玲(チェロ)
<曲目>
湯浅譲二:始原への眼差III――オーケストラのための
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 ハ短調 op. 102
(休憩)
シューマン:交響曲第3番 変ホ長調 op. 97 《ライン》
師走の金曜日、湯浅にブラームスの協奏曲に、シューマンの交響曲。この一見とりとめのないプログラムでどんな夜になるというのか。否が応にも期待と不安が高まる。
湯浅のUPIC(電子音響作成用コンピュータ)のための『始原への眼差I』(1991)は、翌年にNHK交響楽団によって初演されたオーケストラバージョン『始原への眼差II』につづき、2005年に日本フィルハーモニー交響楽団(飯守泰次郎指揮)で初演された。今回は2005年版と同じ演奏者による再演である。初演時のような、「コンピュータ音楽を生のオーケストラが実演している」感じが薄れ、よりオーケストラ曲らしい演奏であったが、それと引き換えに、湯浅作品のもつミクロの単位まで計算し尽くされた構築性といったものが若干希薄に感じられたのは残念だった。
ブラームスの二重協奏曲は、オーケストラの中からソリストを立てて演奏され、結果としてそれが功を奏した。この曲のもつ重苦しさよりもソリストのもつフレッシュさが強調され、それをオーケストラがあたたかく支えている様子がこちらに伝わってきた。協奏曲というよりは大きな編成の室内楽を聴いているようなアンサンブル感と親密さが好ましく感じられた。
ここまでですでに満ち足りた感はあったのだが、飯守の本領は休憩後のシューマンで発揮された。『ライン』の往年の名演奏は今の感覚からすると「ベタ」な感じがし、逆に最近の若い指揮者のものは軽快でよいのだがシューマンらしさには欠ける。飯守の『ライン』はそのどちらでもなく、早過ぎず遅すぎず、重すぎず軽過ぎず、絶妙なテンポ設定と曲運びをみせた。だからといってそれは決して凡庸ではない。1楽章のメリハリ、2楽章の安定感、3楽章の伸びやかさ、4楽章の対位法的処理の的確さ、5楽章の華やかさ、どれをとっても文句のつけようがない。
慌ただしい1週間を過ごした後の金曜の夜、まずは湯浅作品で現実から意識を遠のかせ、ブラームスでほっとした時間を過ごし、シューマンでどっしりとした満足感と充実感を手にする。見事に飯守マジックにはまってしまった。初冬に沁みるいい夜だった。