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新日本フィルハーモニー交響楽団 第567回定期演奏会|齋藤俊夫

%e6%96%b0%e6%97%a5%e3%83%95%e3%82%a3%e3%83%ab新日本フィルハーモニー交響楽団 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉第567回定期演奏会

2916年126日 サントリーホール
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
新日本フィルハーモニー交響楽団
指揮:上岡敏之

<曲目>
イゴール・ストラヴィンスキー:バレエ音楽『プルチネッラ組曲』
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー:バレエ組曲『くるみ割り人形』
セルゲイ・プロコフィエフ:交響曲第5番変ロ長調
(アンコール)チャイコフスキー:バレエ音楽『くるみ割り人形』より第14番『パ・ド・ドゥ』

 

ロシアの作曲家3名を取り上げた今回の演奏会、始めの『プルチネッラ』を聴いているとき筆者は「?」となってしまった。ストラヴィンスキーの新古典主義時代の中でも特にその古典主義が極まった典雅な曲のはずだが、妙に荒々しい。アンサンブルの精度を高めるよりも、音楽の速度を求めるかのような演奏解釈にいささかならずためらい、違和感を覚えた。これでいいのだろうか、と。

次のチャイコフスキーの『小さな序曲』『行進曲』『こんぺい糖の踊り』は軽やかで愛らしい音楽だったし、『トレパーク』の走りつつ踊るような演奏など非常に心地良かったのだが、しかし『アラビアの踊り』『中国の踊り』『葦笛の踊り』『花のワルツ』ではやはりアンサンブルの粗さが目立ち、妙に乗りに乗って少々の粗さを無視して音楽を走らせていこうとするのが聴こえてきた。特に『花のワルツ』の終曲部分のアッチェレランドは少々やりすぎだったのではないかと思う。やはり筆者の頭の中には「?」が残った。

しかし後半のメイン、プロコフィエフの交響曲第5番を聴いて筆者の頭の中には「?」ではなく「!」が浮かんできた。交響曲の序曲的な第1楽章のスケールの大きさと各パートのハキハキとした伸びやかな活躍ぶり。第2楽章のスケルツォは短調なのに愉快爽快。第3楽章は苦悩するかのような旋律が現れるも、プロコフィエフの男性的な音楽は決して涙を見せず、悲劇に立ち向かう。そして第4楽章アレグロ・ジョコーソの4拍子の同音連打にたまらなくワクワクと心沸き立たされ、高速で一気呵成に突き進む音楽に心奪われあっという間に終曲を迎える。痛快至極。怒濤の勢いだが、決して野蛮におちいることなく、整然として隙のない演奏、さながら鋼鉄でできた機械の獣が駆け抜けていくがごとし。

筆者は今回のプロコフィエフにチャイコフスキーの交響曲第4番やショスタコーヴィチの交響曲第4番と近いものを感じ、それを「ロシア的」だと思った。そして彼らの勢いのあるアレグロはドストエフスキーの小説の登場人物達の、読む者を引き込むあの長大な台詞に宿るスピードとも共通するものを感じたのである。
音楽に国境は無いとも言われるが、しかし、文化圏ごとに、ジャンルを越えた「感性の歴史・伝統」があることは認めざるを得まい。今回の演奏会はロシアの文化のある側面と真正面から相対する良い機会だったと言えよう。

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