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人の心に平和のとりでを築くコンサート<大野和士(指揮)萩原麻未(ピアノ)夢の共演>|馬場有里子

toride2016人の心に平和のとりでを築くコンサート<大野和士(指揮)萩原麻未(ピアノ)夢の共演>

2016123日 広島文化学園HBGホール
Reviewed by 馬場有里子(Yuriko Baba
写真提供:NPO法人 音楽は平和を運ぶ

<演奏>
指揮:大野和士
管弦楽:広島交響楽団
ピアノ:萩原麻未

<曲目>
第1部
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調 Op.83
(アンコール … ドビュッシー:《ベルガマスク組曲》より、月の光)
―(休憩)―
第2部
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ドビュッシー:交響詩「海」-3つの交響的スケッチ
(アンコール … ビゼー:《アルルの女》より、ファランドール)

 

「人の心に平和のとりでを築くコンサート」という、やや長く説明的なタイトルの付けられたこの演奏会。まずは何といっても、大野和士の指揮に萩原麻未のピアノという魅力的な取り合わせに心惹かれて足を運んだのだが、何気なく目を通したプログラム冒頭の「ご挨拶」から、このタイトルが実はユネスコ憲章前文の一節から取られたものと知り、(いささか失礼とは思いつつ)軽い驚きを覚えた。

改めて調べてみると、主催の「人の心に平和のとりでを築くコンサート実行委員会」は、2014年に設立されたNPO法人「音楽は平和を運ぶ」を母体としており、翌2015年の広島市被爆70周年記念事業コンサートをはじめ、現在までコンスタントに演奏会の企画を重ねている。広島=ヒロシマで行われる数多の催しの中には、少なくとも宣伝から受ける印象において“平和”や“ピース”の語が時に安易に冠されているように感じるものもあるのだが、当法人の活動はその基盤が自ら被爆経験者でもある設立者の真摯な願いにあると知る。

さて前段が長くなったが、ラヴェルとドビュッシーというオール・フランスもので構成された当演奏会のプログラム。大野、広響、萩原の3者の組み合わせからどんな音が生まれてくるのか、期待が高まる。
1曲目の《ラ・ヴァルス》。大野の指揮の、繊細かつたおやかに曲のイメージを伝える動きに対して、この日の広響は、響きにいつになくゴツゴツとした生っぽさ(曲冒頭)や逆に妙な軟弱さ(弦の弱奏)が目立ったほか、全体としても着慣れないドレスで踊るようなぎこちなさがあり、日頃の好演の印象があるだけに驚かされた。確かに、躍進著しい広響といえどもフランスものはまだそれほど得意というところではなく、またこの日評者の聴いた席(1階席後方の、2階席がかぶさる辺り)も好位置ではなかったかもしれないが、せっかくのこの《ラ・ヴァルス》、もう一息の優美さや、軽やかなふくらみが欲しかった。

続く《ピアノ協奏曲 ト長調》は、萩原が6年前の第65回ジュネーヴ国際コンクールで日本人初の優勝を飾ったときに弾かれた曲。濃い水色のドレスで登場した萩原のピアノは、しなやかなメロディの歌わせ方、瑞々しい躍動感に独特の起伏をもつグルーヴ感など、変幻自在の豊かな表情を見せながら、曲の各部分をまさに水の流れを思わせるような一つながりの線として奏でていった。また、オーケストラとのやりとりや受け渡しも絶妙で、「室内楽的な要素もたくさん含まれ」るとの萩原の言のとおり、全楽章を通して、オーケストラを立てるところ、一転ピアノが前面に躍り出るところのさじ加減にまさに室内楽的なバランスの妙と新鮮さを随所に感じさせ、大野の指揮、萩原の意図、広響の演奏とがうまくかみ合った、強く印象に残る好演だった。
アンコールの<月の光>は、見事なグラデーションを成す繊細な弱音のコントロールと、微妙なやわらかい陰影を放つ萩原の音の美しさにしばし魅了された。

休憩を挿んだ後半、ドビュッシー《牧神の午後への前奏曲》と《交響詩「海」》は、《ラ・ヴァルス》で感じたぎこちなさが少なくとも数段後退し、<波の戯れ>における軽やかさをはじめ、大野のイマジネーション豊かな指揮ぶりに沿うような音が聴かれ始めた。とはいえ、ここにさらに、響きのいっそうの伸びやかさやふくらみ、あるいは雲形定規を自在に使いこなしたような美しい曲線的表現といったものが加われば、という期待もつい抱かずにはいられなかったのが正直なところでもある。
最後のアンコール曲、ビゼーの<ファランドール>は、さすがに小気味よく引き締まった華やかな演奏ぶりで、文句なく会場を楽しませてくれた。

それにしても、今回改めて感じたのが広響にとっての音楽専用ホールの必要性である。広島の、そして広響の一人の音楽ファンとしても、今後は、(本演奏会でも使われた)現在の多目的ホールではなく、ぜひ音響の良い本格的なホール環境の中で、じっくりと豊かな響きを作り上げていってほしいと願わずにはいられない。

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