プラジャーク・クヮルテット 関西弦楽四重奏団|小石かつら
KCM Concert Series at Osaka Club No. 108
プラジャーク・クヮルテット 関西弦楽四重奏団〜弦楽四重奏の祭典〜
2016年12月9日 大阪倶楽部4Fホール
Reviewed by 小石かつら(Katsura Koishi)
写真提供:Kojima Concert Management Co., Ltd.
<演奏>
【プラジャーク・クヮルテット】
ヤナ・ヴォナシュコーヴァ(ヴァイオリン)
ヴラスティミル・ホレク(ヴァイオリン)
ヨセフ・クルソニュ(ヴィオラ)
ミハル・カニュカ(チェロ)
【関西弦楽四重奏団】
林七奈(ヴァイオリン)
田村安祐美(ヴァイオリン)
小峰航一(ヴィオラ)
上森祥平(チェロ)
<曲目>
ボロディン:弦楽四重奏曲第2番 ニ長調
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 Op.51, B.92「スラブ風」
~休憩~
メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 変ホ長調 Op. 20
関西弦楽四重奏団とプラジャーク・クヮルテットの共演。この贅沢な組み合わせだけでも心を奪われるのに、それが、大正期から続く大阪の社交の場、大阪倶楽部のホールで開催される。夢のような企画だ。どっしりと重厚な会場に入り、4階の受付を過ぎると、プラジャーク・クヮルテットのミハル・カニュカが「ボクのジャケットはどこ?」と大慌てしている場面に遭遇して、なんだかうれしい気分になる。そもそも奏者と観客の距離が近い会場なのだが、奏者の控えの間も、観客の入り口も、すべてが近い。わくわくする。
関西弦楽四重奏団は、40代が中心の溌剌としたグループだ。演奏がはじまった途端、フレーズの短さに驚愕した。これまで、フレーズの長さに驚くことはあっても、短さに驚くことはなかった。いや、丁寧に書くと、「短くて嫌だな」と思うことはあっても、「短くてすばらしい」と思うことはなかった。とにかく、演奏会冒頭の曲目、ボロディンの弦楽四重奏曲は、フレーズのとらえ方が短くて絶妙なのだ。もしも顕微鏡で音楽を眺めたら、こんな世界がひろがっているのではないかと錯覚する。息をのんでじっと覗くレンズの先に輝く、別世界。だからだろう。紡がれる音はとても繊細で、それでいて、たいへんスケールの大きな音楽だった。
二曲目のドヴォルザークの『弦楽四重奏曲第10番 スラブ風』は、プラジャーク・クヮルテットが奏した。円熟した彼らの最大の特徴は、各々の奏者の掛け合いの鋭さにある。エッジが効いてスリリング。しかも音楽はしっかり低音に根ざしていて、真の安定感がある。こういう根幹の部分というのは、いったいどこから生まれてくるのだろうか。近年、プラジャーク・クヮルテットの第一ヴァイオリンは、レメシュ、フーラ、チェピッキー、そして若手女性のヤナ・ヴォナシュコーヴァへと入れかわってきた。当夜の演奏は、彼女の汗したたる熱演が牽引するもので、迫力満点だった。
クライマックスは、メンデルスゾーンの『弦楽八重奏曲』だ。もう、まるでオーケストラである。奏者がたったの8人だなんて思えない。メンデルスゾーンはこの第三楽章を、『シンフォニー第一番』の第三楽章として流用したことがあるのだけれど、それも当夜の演奏を体感すれば納得である。生命力に満ちた音の粒が撒き散らされ、響きが重なり合い、空間全体は、わきあがるような音の渦で満たされる。2つの四重奏団のメンバーたちは、演奏会前半、お互いの演奏を客席で聴き合う親密さで、支え合っていた。こんな演奏会があるんだなあ、その場にいることができて幸せだなあ、と、心から思った。感謝でいっぱいである。