石島正博「みるなの座敷」|齋藤俊夫   

%e3%81%bf%e3%82%8b%e3%81%aa東京室内歌劇場小劇場シリーズ第2回 
みるなの座敷 

2016年11月8日 渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール 
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito) 

<曲目・演奏>
(全て石島正博作曲)

第1部 石島正博の世界
ピアノ:塚田真理
「夜の祈りをささぐれば」(1984)(詩:大手拓次)、ソプラノ:栗田真希子
「片恋」(1989)(詩:北原白秋)、メゾソプラノ:梶沼美和子
「どうしてあなたは」(2012)(詩:鮫島貞雄)、バリトン:塙翔平
「夜のパリ」(新作初演)(詩:J・プレヴェール、訳詩:小笠原豊樹)、バリトン:塙翔平
「わらう」(新作初演)(詩:谷川俊太郎)、メゾソプラノ:内田裕見子
「逸題」(新作初演)(詩:井伏鱒二)、バリトン:清水一成
「八木重吉の詩による歌曲集」(2011)(詩:八木重吉)、ソプラノ:小池芳子

第2部 オペラ「みるなの座敷」(室内楽ハイライト版)(東京初演)
台本:若林一郎
作曲:石島正博
指揮:石島正博
演出:橋本英志
舞台監督:堀井基宏
映像製作:阿部花乃子
おゆき:新藤昌子
幸吉:新津耕平
ソプラノ:小池芳子、栗田真希子
メゾソプラノ:内田裕見子、梶沼美和子
テノール:島田道生、曽根雅俊
バリトン:清水一成、塙翔平
ナレーター:藤田恒美
ヴァイオリン:河野彩
チェロ:奥村景
フルート:鈴木芽玖
クラリネット:鈴木悠紀子
ピアノ:塚田真理

第1部の《石島正博の世界》(ピアノ付き独唱曲集)の時点でその暖かい音楽世界にひたった。『八木重吉の詩による歌曲集』の第2曲以外は全て長調で書かれた甘やかで優しい響き、特に筆者が心打たれたのは井伏鱒二の詩『逸題』の「今日は中秋名月、初恋を偲ぶ日」の節に始まるのどやかな歌である。筆者も井伏鱒二は大好きで彼の全詩集など所蔵しているのだが、なるほど、このように音楽化することができるのかと感心しきりであった。音楽を音楽として押し付けるのではなく、あたかも聴衆の隣に座って歌うようにさり気なく歌う、その風情に感じ入った。単純な書法による長調の音楽にこんな表現の可能性があったのか、とも。

第2部、オペラ『みるなの座敷』(室内楽ハイライト版)もまた石島の音楽のノスタルジックな響きが最初から最後まで通底しており、優しいが揺るがない彼の音楽的意思を感じ取った。越後地方の民話を題材としているそうだが、『夕鶴』や『青ひげ公の城』のような「見てはいけない(みるな)の座敷」を見てしまうというストーリーの歌劇である。デラシネのように旅に生きてきた針売りの主人公幸吉(新津耕平)が訪れた不思議な家の襖を次々と開けていくと、自分の故郷と幼馴染おゆき(新藤昌子)との思い出が座敷ごとに蘇り、そして最後の「みるなの座敷」で結婚を間近に控えたおゆきとの死別を思い出してしまい、しかし劇の終りには悲しい思い出があってもそれでも故郷に帰る決心をするというそのノスタルジアに石島の音楽が寄り添っていた。エピローグ<再生する光>では帰郷の決心をした幸吉のアリアに合唱とおゆき(あるいはおゆきの幽霊か?)の歌がかさなり、自らの新しい生き方を故郷に見出さんとする彼の決意を祝福していた。また特筆にあたいするのは室内楽の楽器パートと合唱パートが時に交響的とも言える響きで会場に鳴り響いたその管弦楽法の見事さである。特にピアノ(塚田真理)の使い方が卓越していた。室内歌劇場小劇場公演の1つの「解」であったと言えよう。

実に暖かい公演であった。複雑なエクリチュールなどなくとも、音楽的に「言いたいこと」がはっきりしていればそれは音楽として立派なものとなる好例と言えよう。石島正博、この路線をまっすぐ進んでいって欲しい作家である。

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編集部註)石島正博「五線紙のパンセ」