『ナクソス島のアリアドネ』|佐伯ふみ

%e3%82%a2%e3%83%aa%e3%82%a2%e3%83%89%e3%83%8d東京二期会オペラ劇場
R.シュトラウスナクソス島のアリアドネ

20161124日 日生劇場
Reviewed by 佐伯ふみ(Fumi Saeki
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

〈台本〉フーゴー・フォン・ホフマンスタール
〈作曲〉リヒャルト・シュトラウス

〈指揮〉シモーネ・ヤング
〈演出〉カロリーネ・グルーバー
〈管弦楽〉東京交響楽団

〈キャスト〉
執事長:多田羅迪夫
音楽教師:山下浩司
作曲家:杉山由紀
プリマドンナ/アリアドネ:田崎尚美
テノール歌手/バッカス:菅野 敦
士官:伊藤 潤
舞踏教師:大川信之
かつら師:原田 圭
召使い:湯澤直幹
ツェルビネッタ:清野友香莉
ハルレキン:近藤 圭
スカラムッチョ:吉田 連
トゥルファルデン:松井永太郎
ブルゲッラ:加藤太朗
ナヤーデ:廣森 彩
ドゥリヤーデ:田村由貴絵
エコー:北村さおり

〈スタッフ〉
装置:ロイ・スパーン
衣裳:ミヒャエラ・バールト
照明:喜多村 貴

二期会でこの作品を取り上げるのは1971年以来4度目とのこと。今回はライプツィヒ歌劇場との提携公演で、舞台を現代に設定したカロリーネ・グルーバーの先鋭的な演出が見もの。衣裳がまた(特に第2幕の茶番劇では)ふざけきった大胆なもので、この弾け方はなかなか日本人にはできないなと思う。

歌手たちは粒ぞろいの実力者で聴き応えがあった。特に、アリアドネの田崎尚美、作曲家の杉山由紀、ツェルビネッタの清野友香莉。いちばんの殊勲はオーケストラであり、リヒャルト・シュトラウスの音楽。いかにもウィーン、退廃的な、とろけるような美しさでほれぼれした。硬軟自在のシュトラウスの作曲を巧みにさばいた、指揮のシモーネ・ヤングと東京交響楽団に最大の拍手を送りたい。

全2幕。開幕の「プロローグ」のシーンを、グルーバーは地下駐車場に設定。背景にコンクリート剥き出しの駐車場が見え、歩行者出入口が舞台後ろ中央にある。「駐車場に通じるエレベーターホール」と言えばわかりやすいが、エレベーターではなく階段が上手にしつらえられて、登場人物はここから出入りする。殺風景で寒々しく、ガソリンの臭いがただよう地下。ここに、悲劇のグランドオペラに出演する歌手たちと作曲家・音楽教師、それとは対照的な俗っぽい歌舞団の役者たちが集められ、執事長(多田羅迪夫)が指示をする。かつて王侯貴族に仕えていた音楽家が、芸術家でもなんでもなく使用人扱いだったことを彷彿とさせる設定。金満家の主人の無茶な要求で、ギリシャ神話に基づく聖なる悲劇と、歌舞団の茶番劇を同時に上演することになる。しかも、上演は「9時きっかりに打ち上げられる花火」までに終わらせろという厳命。嘆き怒る作曲家を杉山由紀が好演。すこし線が細いのが惜しいが、美しい声と切々とした表現力は魅力的。

後半の「オペラ」と題された第2幕は、贅沢なしつらえの大広間。さながら結婚式の披露宴のような、盛大な宴会が開かれていて、その一角でまずアリアドネの悲劇が上演される。田崎尚美の豊潤で迫力ある美声はまさにプリマドンナ。3人のニンフ(廣森 彩、田村由貴絵、北村さおり)のアンサンブルも綺麗に融け合っている。嘆くアリアドネを慰めるような風情で、ツェルビネッタが現れ歌舞団の笑劇が始まる。はちゃめちゃな衣裳の男たち(近藤 圭、吉田 連、松井永太郎、加藤太朗)が、歌に踊りに滑稽な身振りにと大奮闘。ツェルビネッタのあの長大なアリアを清野友香莉がチャーミングにこなして、コロラトゥーラも美しく決め、拍手喝采だった。このシーンは演出のしどころで、思い切りはじけて遊んでいるという印象。でもどんなに背景で動きがあっても、歌を邪魔しないのはさすがで、面白かった。アリアドネとツェルビネッタ、対照的に見えてまるで1人の女性の2面を示すかに見え、そこに演出の明瞭な意図を感じる。バッカス(菅野 敦)が登場し、再びギリシャ悲劇へ。菅野は舞台での存在感があって巧みに歌いこなしていたが、少し声が伸び悩んだ様子なのは惜しかった。

ラスト、バッカスのアリアでは舞台にいるすべての登場人物がぱたりと動きを止め、「そなたが私の腕のなかで死ぬよりも前に、不滅の星々が死ぬだろう」と歌い上げるなか、1人また1人と倒れていく。まるで、この一場だけ命を吹き込まれていた操り人形のように。悲劇も喜劇もなく、すべてが一幕の儚い夢であったかのように。そして最後、アリアドネが倒れ、なんと、それを見つめていたバッカスも倒れてしまう。神の死。命あるものがなくなった荒涼とした舞台に、プロローグから黙劇で姿を見せていたキューピッドが現れ、客席に向かって弓をひく。次はあなたの番ですよ、この一幕の劇の登場人物になるのは。管弦楽が素晴らしく繊細な余韻を残して幕。

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