ウィーン便り|クリスマスを待ちながら|佐野旭司
クリスマスを待ちながら
text & photos by 佐野旭司 (Akitsugu Sano)
11月中頃には、名古屋で開催された日本音楽学会全国大会で研究発表をするために1週間ほど日本に行っていた。ちょうど本誌に前回のコラムがアップされた時のことだが。日本では芸大の学生や先生方をはじめ久しぶりに音楽学者の人たちに会ったり、また名古屋で美味しいものを食べたりと楽しく過ごすことができた。ウィーンに戻ってからはその学会発表の原稿を、ウィーンで指導を受けている先生に送るためにドイツ語に訳す作業を行っている(というか、ようやく始めたばかりだが)。
ところで、日本での滞在を終えてウィーンに戻ってきたら、寮の中で気になることがあった。部屋に入ったら、物が置いてある位置が若干変わっていたり、ゴミが捨てられていたり、窓が開けっぱなしだったりと、色々と変わったことが起きていた。特に窓のことは気になったので、管理人さんに問い合わせてみたら、不在の間に掃除の人が来ていたとのことだった。窓はその時に閉め忘れたのだとか。寮の関係者の人が部屋に入ることができるのは知っていたけど、掃除に来てくれるとは・・・ もちろん毎日ではないだろうけど、ホテルみたいにサービスが良い。さすが家賃が高いだけのことはある。(ただ窓の閉め忘れはさすがに不用心なので、勘弁してほしいが。)
さて前置きが長くなったが、一時帰国から戻ってきたウィーンはすっかり寒くなり、いよいよ本格的な冬の到来といった雰囲気である。日も短くなり、11月半ばですでに3時半を過ぎると日が陰って夕方のように暗くなる。そして4時半を過ぎると日が沈んでしまう。数年前、1月に資料調査のために1か月ほどウィーンに滞在したことがあるので、こちらの冬が暗いのはよくわかっているけど、今年もまたそういう季節に入ったようだ。ウィーンだけでなくヨーロッパでの留学経験がある友人からは、冬になるとその暗さのために気が滅入ってしまうという話はよく聞く。
しかし日が短くて暗い代わりに(いや、だからこそと言うべきだろうか)、夕方になると街では綺麗なイルミネーションが目立ち、またクリスマスの雰囲気でむしろ活気が感じられる。11月の後半からすでに市庁舎の広場やミヒャエル広場、シュテファン大聖堂の前などでクリスマスマーケットが開かれており、夜はケルントナー通りをはじめ中心地ではクリスマスのイルミネーションやクリスマスツリーが美しい。
またこの時期といえば、教会でのイベントもウィーンの見どころの1つではないだろうか。ウィーンの中心地にはシュテファン大聖堂、ヴォティーフ教会、ペーター教会、ミヒャエル教会など有名な教会が多いが、私は最近、グラーベンにあるペーター教会によく行く。ここでは毎日平日は15時から、土日は20時から無料のオルガンコンサートが開かれている。私も11月になってからそのことを知り、これまでに2回ほどこの演奏会に行ってみた。この教会は特に演奏会のイベントが多く、とりわけ今の時期には待降節のコンサートが連日開かれている。
その中で私が足を運んだのは12月4日のミサと演奏会である。この日は午前中に(11時過ぎから)待降節第2日曜日のミサが行われ、午後には3時からオルガン伴奏による声楽のコンサートがあった。
午前中のミサでは聖歌隊によるグレゴリオ聖歌の演奏を聴くことができた。自分自身も芸大で中世・ルネサンスの音楽を演奏する団体に入っており、今までにも幾度となくグレゴリオ聖歌を歌ってきた。また芸大の友人が行う演奏会でも聴く機会は何度もあった。しかしカトリックの教会で、それもミサの場でグレゴリオ聖歌の演奏を聴くのは今回が初めてだった。こういう経験ができるものヨーロッパに滞在しているからこそだろう。
そして午後のコンサートではバッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディ、モーツァルトなどの声楽曲を演奏していた。プログラムがなかったので曲目についての詳細は分からないが、バッハの《マニフィカト》のテノールのアリア、ヘンデルの《メサイア》のソプラノのアリア《大いに喜べ、シオンの娘よ》、あと作曲家は分からないが《アヴェ・マリア》などが歌われていた。自分の知らない曲も多く、曲名が分かったのはこのくらいだが、いずれもイエスの到来に関する歌詞の曲である。おそらく待降節の時期にちなんで、そのような内容の曲ばかりを集めてプログラムを組んだのだと思う。
これからクリスマスにかけて、このような演奏会が今後も行われるそうなので、今後も何度か足を運んでみたい。
さてこの時期の重要なイベントといえば何といってもクリスマスマーケットである。11月の終わりからすでにあちこちで開かれており、私も先日市庁舎の広場のマーケットに行ってみた。といっても少し覗いてみた程度だが、綺麗なクリスマス・キャンドルやグリューワインなどを売っているのを見かけた。この次はぜひ美味しいお菓子やお酒、またクリスマスの装飾品などを買ってみようと思う。また12月半ばには何か所かクリスマスマーケット巡りをする予定があるので、来月にはそのあたりの報告をしたい。
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佐野旭司 (Akitsugu Sano)
東京都出身。青山学院大学文学部卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程および博士後期課程修了。博士(音楽学)。マーラー、シェーンベルクを中心に世紀転換期ウィーンの音楽の研究を行う。
東京藝術大学音楽学部教育研究助手、同非常勤講師を務め、現在東京藝術大学専門研究員およびオーストリア政府奨学生としてウィーンに留学中。