東京交響楽団 第645回 定期演奏会|藤原聡   

%e6%9d%b1%e9%9f%bf%e3%83%95%e3%82%a1%e3%82%a6%e3%82%b9%e3%83%88東京交響楽団 第645回 定期演奏会 

2016年10月15日 サントリーホール 
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara) 
Photos by 池上直哉/写真提供:東京交響楽団 

<演奏>
ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団

<曲目>
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
(ソリストのアンコール)
ギユマン:無伴奏ヴァイオリンのためのアミューズ 作品18
ショスタコーヴィチ:交響曲第10番 ホ短調 作品93

ノットと東響は10月下旬にヨーロッパツアーを敢行するが(ブロツワフ、ザグレブ、ウィーン、ロッテルダム、ドルトムント)、その際のプログラムは10月9日に行なわれたブラームスの交響曲『第1番』をメインとするものと、当夜のプログラムの計2つである。ちなみに当夜のオーケストラ配置、vn対向配置はノットの常だが、コントラバスが舞台の1番奥に横一列。ウィーン公演での会場、ムジークフェラインザールを想定してのものだと思ったのだが、いかに。

前半はイザベル・ファウストを迎えてのベートーヴェンだが、彼女が凄かった。ガット弦を使用していたかどうかは定かではないものの、その音色はピンと張り詰め、冴え冴えとした美しさを示す。しなやかかつ多彩なボウイングによってニュアンスは細やかに変化し、左手のヴィブラートも多彩。表現は「沈滞」から「軽やかさ」まで実に幅広く、しかも部分の効果にとらわれずにあくまで全体の構成の中に見事に織り込まれる。例えば「沈滞」で言えば第2楽章後半部、弦楽器群のピチカートを支えにして主題が変容して回帰して来る箇所の驚くべき繊細な弱音。どんどん音が弱まって行き、聴くこちらは息すら出来ない。また「軽やかさ」であれば終楽章では主部に入る前と2度目のロンド回帰前に即興的なアインガングを挟み込んだり、想定外のルフトパウゼを掛けたり。主題の弾き方も一様ではなく、微妙な強弱を付けて波の満ち引きのような効果を出したり、はたまたパッセージを微妙に前のめりに弾いて遊んでみたり。しかも、繰り返すがこれらが全くわざとらしくなく、実に自然なのだ。これはもう音楽性とセンスの成せる業、としか言いようのないものだろう(ちなみに第1楽章のカデンツァは作曲者自身がピアノ協奏曲にアレンジした際に作ったものを「逆転用」したもの。これももはやかなりおなじみですね)。
ノット指揮の東響もソロと息の合ったところを聴かせてくれたが、ファウストのソロを引き立てるには、さらに寄り添った方が良かったという気はする。ソロに比べていささか大味だったかも知れない(あくまでファウストのソロに対峙するには、というレヴェルであり、一般的には十分な名演には違いない。ホールが大きいので力んだのかも知れない)。

ファウストが弾いたアンコールはギユマンの『アミューズ』という佳品。リズミカルな舞曲で大変楽しい曲であった。こういう場合の定番曲であるバッハの無伴奏曲もよいが、秘曲を出してくるのがまた憎い。

休憩を挟んでの後半はショスタコーヴィチの交響曲『第10番』だったが、結論から先に書いてしまえば、「良かったが彼らの最良ではない」といったところだろうか。基本的にはスマートかつ理知的な解釈であり、いかにも現代的でノットの常として切れ味もある。しかし、ノットにしては「その段階」で止まっており、そこから先の突き詰めた表現がやや希薄に思える。
例えば第1楽章での最初のトゥッティや展開部以降~楽章クライマックス部でも迫力に欠けていたし、それで言えば第2楽章も同様(但し憑かれたかのような異様な推進力は大変素晴らしい)。ノットというよりもオケ側の問題とも思う。音の厚みと音量に欠けるのだ(特に弦楽器)。ノットに追従できていないような感触を感じる。第3楽章での「ワルツ部分」では、東響弦楽器群のほの暗い音色と楽想がマッチしてよい効果を上げていたが、ここではなぜかホルン・ソロが不調で、例のE-A-E-D-A動機を何度も吹き損じる。終楽章では、ノットは大きなアクションでそれぞれのパートに明確に指示を出していたけれど、その各パートがより「ガチ」で対峙したような音響が出てくるまでには至らず。ゆえに、全体としてはどこかおとなしめにまとまっていた感(但しコーダの迫力は見事)。

当夜のショスタコーヴィチの演奏は、繰り返すが「良かったが彼らの最良ではない」。初日ゆえの硬さ、そしてオケの「基礎体力」の問題が絡み合ってのことだろうが、ノット&東響ならばもっとよい演奏が出来るのは間違いないと思う(翌日の新潟公演はどうたったのだろうか?)。彼らの協業は2026年まで続く。ということは、演奏水準が上がって行く過程をわれわれファンは見届ける楽しみが与えられているということだ。

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