<日本フィル創立60周年記念>ピエタリ・インキネン首席指揮者就任披露演奏会|藤堂清 

 %e6%97%a5%e3%83%95%e3%82%a3%e3%83%ab日本フィル創立60周年記念ピエタリ・インキネン首席指揮者就任披露演奏会

2016年9月27日 サントリーホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
指揮:ピエタリ・インキネン(首席指揮者)
ソプラノ:リーゼ・リンドストローム
テノール:サイモン・オニール
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

<曲目>
ワーグナー:楽劇《ジークフリート》より抜粋
  第3幕冒頭~さすらい人がエルダに託宣を求めるまで(管弦楽のみ)
  第3幕後半 ジークフリートが炎を乗り越えブリュンヒルデに求婚、結ばれる場面
—————-(休憩)——————-
ワーグナー:楽劇《神々の黄昏》より抜粋
  プロローグ 岩山の場面~ジークフリートのラインの旅
  第1幕 ギービッヒ家から岩山の場面への間奏
  第3幕 ジークフリートの死~ジークフリートの葬送行進曲
    ブリュンヒルデの自己犠牲~終幕

ピエタリ・インキネン、36歳のフィンランドの指揮者を新たに首席にむかえた日本フィルハーモニー交響楽団。その就任披露演奏会の曲目として彼が選んだのは、ワーグナーの《ニーベルングの指環》の後半の二作品から、ジークフリートとブリュンヒルデの登場する場面の抜粋。これまでの首席客演指揮者という立場では、シベリウスを振る機会が多かったが、今、力を入れているワーグナーでのお披露目。彼は、この11月から12月にかけてOpera Australia (Melbourne)で、《ニーベルングの指環》を三チクルス指揮する予定となっており、それからもワーグナーへの熱意がうかがえる。

インキネンの音楽には透明感がある。ワーグナーを振っても、各パートをクリアに響かせ、音が濁らないようにコントロールしている。また速めのテンポが音楽の推進力をごく自然に引き出す。
二人の歌手も安定したオーケストラにのって歌いやすそう。ジークフリートを歌ったサイモン・オニールはニュージーランド出身、《ジークフリート》の演奏会形式での歌唱経験はあるが、舞台でのロール・デビューは来年香港が予定されている。一方のブリュンヒルデのリーゼ・リンドストロームはアメリカ生まれ、2009年にトゥーランドットでMETデビュー、このときは急な代役であった。《ジークフリート》と《神々の黄昏》でのブリュンヒルデは、上記インキネンのチクルスが初役となる。

前半の《ジークフリート》の最後の場面、オペラの舞台ではジークフリートの方は疲れ切ってこの場面に臨む場合もあり、二人とも十分に力をもって歌えるのはこういった抜粋ならでは。ジークフリートが初めて「怖れ」を知るまでのオニールのパワフルな声。すでに神性をはく奪されていながらも、その誇りを捨てきれないブリュンヒルデの揺れ動く気持ち、彼の愛を拒絶しようとさえするのだが、結局は受け入れる。リンドストロームは柔らかい声でそういった変化を描き出した。この前半だけで客席は大盛り上がり。

15分の休憩をはさみ、《神々の黄昏》のプロローグ。歌手にとっては短すぎる時間だったかもしれない。リンドストロームの音程が不安定な箇所があった。<ジークフリートのラインの旅>の後、短い間奏をはさみ、<ジークフリートの死>へとつなぎ、<ジークフリートの葬送行進曲>から<ブリュンヒルデの自己犠牲>へと、切れ目なくつないでいった。ここでは二人とも調子をとりもどし、しっかりと聴かせてくれた。リンドストロームの歌詞をはっきりと聴かせる歌唱には好感をおぼえた。

オーケストラもインキネンの指揮によく反応し、聴きごたえ十分。一部で金管楽器が不安定なところもあったが、今後の両者の共同作業で改善が図られることだろう。

幕切れの和音が透明で美しく、その余韻が完全に消えるまで拍手は出なかった。その後の大きな喝采は、この日の演奏への賛辞とともに、インキネンと日本フィルハーモニー交響楽団の今後への期待でもあっただろう。

来年には、ブルックナー、ブラームスとドイツもののプログラムが、そして5月には《ラインの黄金》全曲が予定されている。楽しみに待ちたい。

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