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サントリー芸術財団サマーフェスティバル2016 <カイヤ・サーリアホ> 管弦楽|藤堂清

summerfes2016-%e3%81%ae%e3%82%b3%e3%83%94%e3%83%bc2サントリーホール国際作曲委嘱シリーズNo.39(監修:細川俊夫)
テーマ作曲家<カイヤ・サーリアホ> 管弦楽

2016年8月30日 サントリーホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
写真提供:サントリー芸術財団

<演奏>
指揮:エルネスト・マルティネス=イスキエルド
ハープ:グザヴィエ・ドゥ・メストレ
管弦楽:東京交響楽団

<曲目>
ジャン・シベリウス: 交響曲第7番 (1924)
カイヤ・サーリアホ: トランス(変わりゆく) (2015) 〈世界初演〉(サントリーホール、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、hr交響楽団共同委嘱)
—————-(休憩)——————-
ゾーシャ・ディ・カストリ: 系譜 (2013) 〈日本初演〉
カイヤ・サーリアホ: オリオン (2002)

国際作曲委嘱シリーズの第39回、カイヤ・サーリアホの《トランス(変わりゆく)》が初演された。

3楽章のハープ協奏曲で、第一楽章「フュジティフ(束の間)」、第二楽章「ヴァニテ(虚しさ)」、第三楽章「メサジュ(使者)」と名付けられている。プログラム・ノートに作曲家自身が書いているように、「ハープのデリケートなテクスチャーは、うっかりすると、簡単にオーケストラに覆い隠されてしまう」。それを避けるために、「フル・オーケストラで演奏されるパッセージは稀で、いろいろな楽器グループを種々様々に対話させることに関心を向けている」という。 実際、独奏ハープが浮き上がって聴こえる瞬間が多く、通常の奏法とは異なる、手のひらで叩いたり、弦の上部ではじくといった音も使われ、響きの継続時間や減衰の仕方を多様なものとしていた。オーケストラとの受け渡しに関しては一つの楽器グループと行われるだけでなく、複数のモティーフが並行することも多い。 この曲の前に、シベリウスの最後の交響曲第7番を演奏したのは、この交響曲の圧縮された主題構成との類似を意識させたかったからだろうか。
ハープのグザヴィエ・ドゥ・メストレの音はどのような場面でも美しい。しかもどのような弾き方をしてもやせることがない。東京交響楽団も初演の成功に寄与していた。
私見だが、以前の作品、この後に演奏された《オリオン》などと較べると、表題との関連は弱い。一方で、様々な楽器による響きの多様性は深まっているように感じられた。
この曲は同じソリストにより、フィンランド放送交響楽団、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団での演奏が来年予定されている。 ソリストが変わったとき、どのように演奏され、オーケストラとの対比がどのようになるか、それによって曲の演奏頻度が決まるのではないか。

演奏会後半最初に演奏された《系譜》の作曲家、ゾーシャ・ディ・カストリは1985年カナダ生まれの若手。彼女は「不変であり続ける要素と、絶えず変化したり、組み入れられたり、付加されたりする要素が併存する作品を作り、常に進化し続ける物語を生み出そうと考えた。」と述べている。 核となるコラールを「起源というランドマーク」とし、「様々な新しいテクスチュアと音色」を生み、「いくつかの流れに分岐しながら・・・・進んでいく」そして「最後には・・・・カタルシス的な解放を迎える。」「・・・・コラールの再現がほぼ同様の形を保って点在して・・・・道標としての役割を果たしている。」という。 実際聞こえてくる音楽は、「変化」の部分が多様で、音色、リズム、ダイナミクスなど飽きることがない。曲の作りも最後が盛り上がるという意味で、作曲意図とかかわりなく楽しめるものとなっている。大編成のオーケストラの威力が十分発揮された。

演奏会最後の曲はサーリアホの《オリオン》。3楽章よりなり、それぞれ、<メメント・モリ(死ヲ憶ヘ)>、<冬の空>、<狩人>と名付けられている。 プログラム・ノートでは、「熱烈なものと静止したものをひとつの音楽表現にまとめあげるという意味で、いまもって挑戦的な作品」と書かれている。「狩人であり、活動の人であるオリオン」と、冬の空の星座であるオリオン、この二つの側面に着目し作られている。
静的な部分、ピッコロからクラリネット、金管へと受け渡され、それに打楽器が加わりしだいに拡がっていく。次第にそれらが勢いを増し、畳みかけるような動的な音楽となる。この30分弱に詰め込まれた要素の多いこと。圧倒された。

オーケストラにはもう一段の精度を求めたいところもあったが、充実したコンサートであった。

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