新日本フィルハーモニー交響楽団《千人の交響曲》|藤堂清
新日本フィルハーモニー交響楽団 第560回 定期演奏会
マーラー:交響曲第8番変ホ長調《千人の交響曲》
2016年7月1日 すみだトリフォニーホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<演奏>
指揮:ダニエル・ハーディング
罪深き女:エミリー・マギー
懺悔する女:ユリアーネ・バンゼ
栄光の聖母:市原 愛
サマリアの女:加納 悦子
エジプトのマリア:中島 郁子
マリア崇敬の博士:サイモン・オニール
法悦の教父:ミヒャエル・ナジ
瞑想する教父:シェンヤン
合唱:栗友会合唱団
合唱指揮:栗山 文昭
児童合唱:東京少年少女合唱隊
児童合唱指揮:長谷川 久恵
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
<曲目>
マーラー:交響曲第8番変ホ長調《千人の交響曲》
新日本フィルハーモニー交響楽団の “Music Partner of NJP” として2010/2011シーズンから活動してきたハーディング、この称号のもとでの最後の共演となる。その日のプログラムとして彼は、大曲、マーラーの交響曲第8番を選んだ。《千人の交響曲》という呼称まではいかないが、オーケストラも合唱も大規模な編成で演奏される。合唱は舞台後部に並び、児童合唱は一つあがって、オルガンのフロアで歌う。
曲は二部構成。第一部《讃歌:あらわれたまえ 創造の主 聖霊よ》は、ラテン語の歌詞で合唱のフォルティッシモで歌いだされる。第二部はゲーテの『ファウスト』第二部の最終場面に付曲され、ファウストの魂が天に迎えられる情景をえがく。こちらの歌詞はドイツ語である。
ハーディングはこの大曲をすっきりとまとめている。テンポを速めにとり、強弱もしっかりとつけ、オーケストラと合唱のバランスもよくとれている。個々にみると、合唱の粗い部分、オーケストラのパートの中でばらつく部分など気になるところもあった。私が聴いたのは、3回演奏する初日であったので、後の二回では解消していた可能性はある。
オルガンと低弦・管に導かれる冒頭の二部合唱、この主題が全曲にわたって回帰する。この出だしによって演奏のかなりの部分が決まる。合唱は何人くらいいただろう、150人前後だろうか、入りに関しては、まことに充実した響きであった。
第二部では、8人の独唱者が次々と登場する。マリア崇敬の博士を歌ったサイモン・オニールの厚みと輝きのあるテノール、罪深き女のエミリー・マギーの力強い声、懺悔する女のユリアーネ・バンゼの歌い口のうまさ。多少のでこぼこはあったが、合唱ともども立派に歌っていた。最後の<神秘の合唱>、とくに “Das ewig Weibliche zieht uns hinan” あたりには、思い入れが聴ければよかったのにと感じた。
ハーディングはこの日のコンサートをもって、新日本フィルの “Music Partner of NJP” というポストをはなれる。この任に就いてからのコンサート、記憶に残るものが多い。マーラー・シリーズのいくつか、ブリテンの《戦争レクイエム》などなど。そういった思い出を大切にしていくとともに、今後のハーディングの飛躍を見守りたい。次のシーズンからはパーヴォ・ヤルヴィの後任としてパリ管のシェフとなる。
一方、新日本フィルは、上岡敏之を音楽監督に迎えて新しいシーズンをオープンする。定期演奏会のシリーズを変更したほか、客演指揮者の顔ぶれもずいぶん変わる。それがオーケストラの向上につながると期待したい。