パオロ・ファナーレ|藤堂清
2016年7月8日 紀尾井ホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種( Kiyotane Hayashi)
<演奏>
パオロ・ファナーレ(テノール)
浅野菜生子(ピアノ)
<曲目>
トスティ:理想、魅惑、夏の月、君なんかもう
トスティ:悩み、漁夫は歌う、かわいい口もと、暁は光から闇をへだて
——————-(休憩)——————–
ベッリーニ:《清教徒》より<いとしい乙女よ、あなたに愛を>
グノー:《ファウスト》より<この清らかな住まい>
ビゼー:《真珠採り》より<耳に残る君の歌声>
ドニゼッティ:《愛の妙薬》より<人知れぬ涙>
グノー:《ロメオとジュリエット》より<昇れ太陽>
ヴェルディ:《リゴレット》より<女心の歌>
ドニゼッティ:《連隊の娘》より<ああ、友よ! なんと楽しい日!>
—————–(アンコール)——————
モーツァルト:《コジ・ファン・トゥッテ》より<恋人たちの愛の息吹>
プッチーニ:《ラ・ボエーム》より<冷たき手を>
ヴェルディ:《ラ・トラヴィアータ》より<燃える心を>
ディ・カプア:オ・ソーレ・ミオ
やわらかな美声、ハイCやCisといった高音にも無理がなく、低音域でも響きは安定している。軽めではあるが、ホール全体を声で埋め尽くすことができる。
パオロ・ファナーレ、1982年、イタリア・パレルモ生まれ。2007年にパドヴァ歌劇場でドン・オッターヴィオ(《ドン・ジョヴァンニ》)を歌ってデビュー。パリ、ベルリン、東京、ロンドンといった大劇場での出演も続いている。
前半はトスティの歌曲だけのプログラム。 <理想>や<かわいい口もと>のようにゆったりとした曲、<魅惑>や<君なんかもう>といった音の動きの大きな曲を上手に配置し、聴衆を引き付ける。トスティの甘いメロディーを信頼しきったように丁寧に歌っていく。テンポをゆすったり、伸び縮みをつけたりといった小細工はなく、直球勝負が気持ちよい。
後半はオペラのアリアを歌う。
《清教徒》からの曲は二重唱のうちテノールのパートのみを取り出したものだが、リサイタルで取り上げられることは多い。二曲目の《ファウスト》ともども、彼の高音の美しさを堪能。
プログラムでは、四曲目にロッシーニの《グリエルモ・テル》からアリア<もの言わぬ涙の隠れ家よ>が予定されていたが、その次に予定されていた<人知れぬ涙>を歌い出し、続いてプログラムには入っていなかった《ロメオとジュリエット》を歌った。弱声でも響きが薄くならず安定しており、強く歌うところとの対比がついている。
このあたりになると、彼が舞台から下がっても拍手はなりやまない。次に出てきて<女心の歌>を歌いだす前に、「ここからビス」といったようでもあるが、さてどこまでが本プログラムでどこからがアンコールだったのか・・・・・その次に歌った《連隊の娘》はもともと入っていた曲だし。
でも、そんなことはどうでもよくなる、声のシャワー、やはりイタリアの声。
アンコールの最後は、お約束の<オ・ソーレ・ミオ>。
東京の新国立劇場でも、《コジ・ファン・トゥッテ》や《ドン・ジョヴァンニ》に出演しており、日本でのリサイタルも3回目とのこと。これからも聞く機会が多いことを期待するとともに、伸び盛りの声、大切にと願う。