クラシカル・プレイヤーズ東京演奏会|佐伯ふみ
2016年7月1日 東京芸術劇場
Reviewed by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by Hikaru.★/写真提供:東京芸術劇場
<演奏>
クラシカル・プレイヤーズ東京
有田正広(指揮)
仲道郁代(フォルテピアノ)
<曲目>
モーツァルト:交響曲第32番ト長調 K.318
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調Op.58
モーツァルト:交響曲第40番ト短調K.550
本格的な古楽器オーケストラとして、前身の「東京バッハ・モーツァルト・オーケストラ」から数えるとすでに二十数年、息長い活動を続けるクラシカル・プレイヤーズ東京の定期公演。奏者たちはすでにベテランの域に達し、安定した演奏で、聴き慣れた名曲を新鮮な響きでよみがえらせてくれる。
この日の呼び物は、仲道郁代が所有する1816年ブロードウッド製のフォルテピアノで演奏する、ベートーヴェンの『第4協奏曲』。音量の少ないフォルテピアノを、斜めにオケに入りこむ形で配置し、さらに特注の透明アクリルパネルをオケとの間に立てて、客席に響きを送る。オケとの音量の差はどうしても感じさせられるが、一つの音楽として溶け合わせることはできていて、不満なく聴けた。
仲道のピリオド楽器演奏もずいぶんと堂に入ってきて、安心して楽しめる。ただ、このブロードウッドは音量が少ないというだけでなくて、音にふくよかさが感じられず、楽器の質としてどうなのだろう、とふと思った。響きが割れ気味に聞こえ、無理に声を張り上げているようで、苦し気なのだ。この楽器はそもそも大ホールでの演奏を想定して作られていないのだから仕方ないのかもしれない。一方で、こうした場でモダンを弾き慣れた演奏者の問題という気もした。モダン楽器と同じやりかたで楽器を歌わせてはいないだろうか。 そんなふうに思ったのは、ソリストだけのアンコールで演奏されたベートーヴェン『エリーゼのために』を聴いてから。とても巧みで、聞かせる演奏。素晴らしい。でも、いかにも19世紀的な大きな身振りの感情表出で、少々トゥー・マッチ。ベートーヴェン本人はこの演奏をどう聴くだろう、と思った。肩のこらないアンコールとして、自由な演奏で聴衆を楽しませるのも、もちろん有りだけれど。
ピアノ・コンチェルトをはさんで前後に演奏されたのは、モーツァルトの『交響曲第32番』と『第40番』。最後の『第40番』が自由闊達で生き生き。はじけていた。特に第2楽章アンダンテにはほれぼれと聴き入る。第3、第4楽章は、ちょっと速すぎでは?とも思える、思い切ったテンポ設定で一気に駆け抜けた。一人一人の奏者が個性と自主性を失わず、それでいてまとまるところでは見事にまとまる。古楽器であるとか、ピッチ(音高)の設定だとかを超えて、音楽として純粋に楽しめる。客席の温かい拍手がそれを証明しているように思えた。
演奏会を主催する東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)の企画力にも触れておきたい。日本人の古楽奏者たちのオーケストラの活動を息長く支えてきたことがまず、優れた見識と思う。さらに、定期公演に加えて、オケ・メンバーによる室内楽演奏会シリーズや、「現代の楽器を使って古楽にチャレンジ!」とうたうワークショップ「古楽ラボ」を展開して、聴衆の層を広げ、「古楽」への理解を深める努力を重ねている。ここから、次世代の優れた古楽演奏者、そして、音楽の歴史と文化への興味・理解をもった聴衆が育っていく可能性を感じる。クラシック音楽に関しては、各ホール・団体がそれぞれ教育プログラムを工夫しているが、芸劇ならではのユニークで骨のある企画として注目したい。