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カメラータ・ド・ローザンヌ 初来日ツアー 東京公演|佐伯ふみ

ローザンヌカメラータ・ド・ローザンヌ 初来日ツアー 東京公演

2016年7月7日 東京文化会館 小ホール
Reviewed by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
写真提供:コンサートイマジン

<演奏>
カメラータ・ド・ローザンヌ(弦楽合奏):

ピエール・アモイヤル(Vn)
アンドレイ・バラーノフ(Vn)
フェードル・ルディン(Vn)
フェリックス・フロッシュハマー(Vn)
アンナ・ヴァシリエヴァ(Vn)
リカ・ヤクポヴァ(Vn)
清水祐子アモイヤル(Va)
トビアス・ノス(Va)
伊藤(尾池)亜美(Va)
アレクセイ・ジーリン(Vc)
マリー・エリオット(Vc)
ニコ・プリンツ(Vc)
メルダ・ウムール・サグナー(Cb)
若林 顕(Pf)

<曲目>
ブラームス/デヴィッチ編曲:スケルツォ ハ短調 WoO.2(F.A.E.ソナタより)
モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク ト長調 K525
ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op.11(弦楽合奏版)
チャイコフスキー:弦楽セレナード ハ長調 Op.48

 

名ヴァイオリニスト、そして名伯楽として知られ、パリ音楽院、ローザンヌ音楽院、現在はモーツァルテウム音楽大学で教鞭をとり、多数の優れた若手ヴァイオリニストを世に送りだしているピエール・アモイヤル(1949~ )。そのかたわらピアニストのパヴェル・ギリロフとともに夏期ローザンヌ音楽アカデミーを主宰、ヴァイオリンとピアノのデュオを対象にしたマスタークラスでより集中的な指導もおこなっている。

カメラータ・ド・ローザンヌはアモイヤルによって2002年に結成された弦楽アンサンブルで、国籍を問わず若手の優秀な音楽家たちが集結、曲目によってさまざまな編成で演奏する。これまでにパリ、ミラノ、モスクワなど主要都市でコンサートをおこない、録音は最新盤のチャイコフスキー「弦楽セレナード&フィレンツェの思い出」をはじめ4種、ほか、ダンスやヴィジュアルとのコラボレーション、青少年のための演奏会など多岐にわたる活動を展開しているとのこと。今回が初の日本ツアーで、上野文化会館、藤沢市民会館、浜離宮朝日ホールの3公演、ソリストに若林顕(上野)・菅野潤(藤沢)・山形由美(藤沢)を迎え、賛助出演に山宮るり子(藤沢)、伊藤一人(浜離宮)。近年活躍が目立つ伊藤(旧姓:尾池)亜美もメンバーの一人で、浜離宮公演のバッハ「2つのヴァイオリンのための協奏曲」BWV1043では、師のアモイヤルとともにソロを演奏。

筆者は上野公演のみを聴いたが、初来日の初日ということもあって、非常な力演。ヴァイオリンのトップは師のアモイヤルだが、その隣で堂々とした風格で躍動感あふれる演奏を聞かせていたのが、2012年エリザベート王妃国際コンクールの優勝者アンドレイ・バラーノフである。リーダーの素質十分。ほか、フェードル・ルディン、フェリックス・フロッシュハイマーら個性のあるヴァイオリニストの層の厚さはさすが。ヴィオラのトップ、アモイヤル夫人清水祐子が、開幕のブラームスで気迫のこもった音頭をとり、最後のチャイコフスキーは暗譜で、大きなアクションの熱演。アモイヤル夫妻を中心に、初来日公演を成功させようという意欲が舞台全体に漲っていた。

ショパンではソリストに若林顕を迎え、弦楽合奏版の第一コンチェルト。アンサンブルは一歩引いてピアノの個性を尊重する姿勢。おそらく練習期間は十分ではなかったのだろう、アンサンブルとのやりとりは熟したものとは言えず、いくつかの箇所でおやと思う齟齬もあったのだが、若林は、時に奔放さやケレン味も自在に発揮しながら、ベテランらしい安定感で音楽をリード。

筆者はとくに開幕のブラームスに感心したが、最後のチャイコフスキーはもちろん圧巻の情熱的な表現で、客席の盛んな拍手を誘っていた。

少々残念だったこと。ピアノ協奏曲で、トップの清水を除いて、ヴィオラ・パートの二人の奏者(伊藤亜美、トビアス・ノス)がピアノの蓋の背後に完全に隠れ、客席から見えなかった。狭い舞台で配置に苦労したのだろうが、これではヴィオラの響きが客席に届きにくいし、若いとはいえ少数精鋭のアンサンブルなのだから、いささか奏者に失礼では……。案外、こうしたところで演奏会全体の好感度が左右されるということを、改めて感じた。

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