Music Tomorrow 2016|藤堂清
2016年6月28日 東京オペラシティ コンサートホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<演奏>
指揮:下野竜也
トランペット:セルゲイ・ナカリャコフ
管弦楽:NHK交響楽団
<曲目>
権代敦彦:オーケストラのための“Vice Versa”─逆も真なり─(2015) [第64回尾高賞受賞作品]
大胡 恵:「何を育てているの?」「白いヒヤシンス」(2016) [NHK交響楽団委嘱作品・世界初演]
——————-(休憩)————————-
エイノ・タンベルク:トランペット協奏曲 第1番 作品42(1972)
北爪道夫:地の風景(2000)[第49回尾高賞受賞作品]
第64回尾高賞の授賞式に続いて権代敦彦の受賞作品が演奏された。この作品は、オーケストラ・アンサンブル金沢の委嘱により作曲されたもの、音楽監督の井上道義の指揮するオーケストラ・アンサンブル金沢によって初演が行われている。作品は、井上の詳細な注文、「編成や時間は勿論、2楽章構成、オケ配置、楽器の持ち替え、曲想、引用の有無、等々の指定。それはとにかくあらゆる点で2つの<対照>を描け!という至上命令」(プログラムより)に従って書かれ、2つの楽章は「短長、急緩、高低、動静、明暗・・・・と対照的で」また「<生と死>に極まる対照的」なものとなっている。
作曲者自身がプログラムの「受賞によせて」の冒頭で、「《Vice Versa》の尾高賞受賞の報はショックでした。」と述べ、さらに自身のもう一つの推薦作《Falling Time to the END》の方が「優れた曲」で、《Vice Versa》には「自分では思いもよらない(不純な)要素がいっぱい入り込み、それが居心地悪そうに聴こえる」と書いている。その意味するところは明確ではないが、少なくとも受賞を素直に喜んではいないことはわかる。「詳細な注文」に基づく作品という点に創造者として抵抗があったのだろうか?
選考委員である外山雄三の言葉によれば、「決して大音量で聴き手を圧倒したりしない」というのだが、この日は、初演時に較べると大きな編成での演奏であったためか、特に前半部分で、ホールが飽和状態になることがあり、曲の全体像が把握しにくかった。このような音響が作曲家の意図かは分からないが、正直なところ、耳にも、体にも負担に感じ、作曲者の言う<対照的>な音楽を理解できずに終わった。弱音部分の扱いには響きがやせてしまわない工夫が聴けた。
二曲目は大胡恵の作品の初演である。こちらはNHK交響楽団の委嘱ということもあり、大規模なオーケストラによる音響が計算されていたようで、音の点での問題は感じなかった。
アラブ音楽の素材を取り込んだという、耳慣れないリズム、音色の変化などは興味深かった。その一方で、作曲者の言う「立体へと向かう西洋芸術史的な骨格構成」はあまり明確ではない。
作品のタイトル「白いヒヤシンス」—-原産地がシリア~ギリシャ、花言葉は”I’ll pray for you”—-から期待した「物語」、私には聞きとれなかった。
後半の一曲目、エイノ・タンベルクはエストニアの作曲家、1972年の作品だがもう少し前の時代の様式のように聞こえた。
ここでの独奏者、セルゲイ・ナカリャコフの、柔らかな音、細かな変化をきちんと響かせる技巧、決して威圧的にならない強い音。音楽自体の馴染みやすさもあるだろうが、すぐれた独奏者の存在は聴衆を引き付ける大きな力となる。
最後に演奏された北爪道夫の《地の風景》は、第49回尾高賞受賞作品としてMusic Tomorrow 2001において演奏されている。このコンサートでは、15年ぶりに取り上げられたことになる。当時も感じられたであろう、響きや音の流れの新鮮さの一方で、15年の間に、この曲に使われている技法の一部が、もはや私たちの耳に慣れてきたことも感じた。
そして考える。今日の、権代、大胡の作品を15年後に私はどのように聴くだろうかと。
オーケストラが新作を委嘱したり、新たな作品を定期公演で取り上げたりする機会はかなり限定的だろう。”Music Tomorrow”というコンサートが毎年行われ、演奏機会が設けられることは、音楽創造を支援する場という意味で貴重である。