Dialogue #4|大河内文恵
2016年6月24日 Hakuju Hall
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<演奏>
齋藤真知亜(ヴァイオリン)
鷹羽弘晃(ピアノ)
<曲目>
アイヴズ:ヴァイオリン・ソナタ第4番 「キャンプの集いの子供の日」
権代敦彦:導音~ヴァイオリンとピアノのための~(委嘱作品)
~休憩~
ヘンデル:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ長調 作品1-3
ヘンデル:ヴァイオリン・ソナタ第6番 ホ長調 作品1-15
(アンコール)
ゴセック:ガヴォット
グノー:アヴェ・マリア
金曜の夜、1週間の疲れを引き摺って、雨の中Hakuju Hallに辿り着く。なんでここに来ることにしたんだっけ?あぁそうだ。アイヴズと権代(新曲)とヘンデルなどという、不思議なプログラムのコンサートを見つけ、そのあまりの訳わからなさについ惹かれてしまったのだ。
客席に座りプログラム・ノートを見て愕然。このシリーズは「アルファベット26文字を順にたどり、その文字が頭文字の作曲家の作品を最後のZまで演奏する」企画で、今回はGHIということで、このラインナップになったという。現代曲と古楽レパートリーのヘンデルを一緒にプログラミングする演奏家とはどんな人なのだろう?という当初の興味はいきなり解決してしまった。
コンサートはトークから始まった。軽妙な話で場が温まったところでアイヴズ。ヴァイオリンとピアノとが全く違うことをしているのに絶妙に合っている2楽章はまさにDialogueというシリーズタイトルを体現し、つづく讃美歌『Gather at the river』のメロディーを核にした3楽章は、齋藤と鷹羽の茶目っ気たっぷりの演奏で、観客を大いに楽しませた。
権代作品は、『導音~ヴァイオリンとピアノのための~』とタイトルが変更された(当初のタイトルは『放蕩息子』)。新約聖書「ルカによる福音書」第15章にある「放蕩息子」をテーマに書かれたこの作品は、権代らしいぴりりとした緊張感とがっちりとした構成をもつ。曲のもつ破格のエネルギーを、時に繊細に時に大胆に提示してみせた齋藤と鷹羽の演奏は、この曲の初演にふさわしいものであった。
後半に演奏されたヘンデルの2つのソナタは、齋藤にとってはコンクールの思い出と結びついているそうだが、彼がコンクールを受ける子どもだった頃と現在とではこの曲をめぐる状況は変化している。すなわち、古楽演奏の定番曲となったために、バロック・ヴァイオリンとチェンバロもしくはバロック・ヴァイオリンと通奏低音で演奏される機会のほうが圧倒的に多くなり、モダンの(つまり通常の)ヴァイオリンとピアノでの演奏は珍しくなった。そのためか、CDなどでのモダン・ヴァイオリンでの演奏では、楽器の鳴りを強調した情感たっぷりの熱演が多くなっている。
そんななか、彼らがとった路線はモダンで古楽に近い演奏をすることであった。いや正確には、古楽器の演奏を真似たのではなく、ヘンデルの楽曲に迫った結果、古楽に近い演奏になったというべきであろうか。齋藤の限りなく透明なヴァイオリンの響きと、鷹羽の先ほどまでの熱演がウソのような軽いタッチのピアノ。ここで聴かれたのは、ヴィルトゥオーゾ(超人芸)ではなく、マイスター(職人芸)、しかも飛びきりの。この職人芸はアンコール2曲め、グノーのヴァイオリンの出だしでの、耳に届くギリギリ最小限の音のはかなさにもよくあらわれていた。
帰り道、ここに来る前の疲労感がウソのように足取りが軽くなったのは、朝からの雨が上がっていたせいだけではなかろう。早くも来年のDialogueが楽しみになってきた。