樫本大進&小菅優&クラウディオ・ボルケス トリオ|佐伯ふみ

トリオ樫本大進(Vn)&小菅優(Pf)&クラウディオ・ボルケス(Vc)トリオ

2016年5月30日 東京オペラシティ コンサートホール
Reviewed by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
樫本大進(ヴァイオリン)
小菅優(ピアノ)
クラウディオ・ボルケス(チェロ)

<曲目>
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲
第3番ハ短調Op.1-3
第6番変ホ長調Op.70-2
第7番変ロ長調Op.97

2015年まで足かけ6年、東京・大阪でのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会を完結させた小菅優。新たな挑戦として、室内楽や歌曲を含む、すべてのピアノ付きの作品を取り上げる新企画「ベートーヴェン詣で」を始めるという。その幕開けの演奏会である。

共演の樫本大進については言わずもがな。小菅がトリオを組むのに、相手にとって不足はなし、最良のタッグと言える。チェロのクラウディオ・ボルケスについては少し紹介が必要だろう。1995年ジュネーヴ国際音楽コンクール優勝、2000年に第1回パブロ・カザルス国際コンクールで第1位(および最も優れた室内楽演奏に贈られる特別賞受賞)という実力派。樫本が音楽監督を務める「ル・ポン国際音楽祭 赤穂・姫路」の常連である(ちなみにこの音楽祭は今年で10周年。10月7日にはボルケスも出演予定の東京特別公演が行われる)。旺盛な演奏活動のかたわら、シュトゥットガルト音楽大学教授として、教育にも力を注いでいるという。当夜のコンサートでも、良き教育者という横顔を彷彿させるような、堅実な演奏を聞かせていた。

小菅のピアノは、つい先頃までソナタ全曲に取り組んできた成果が如実に表れていて、ベートーヴェンとの強い信頼関係、とでも言いたくなるような、親密な雰囲気を醸し出している。ベートーヴェンが音楽で言いたいことを、すみずみまでよく心得て代弁してくると共に、その大胆な創意に、つねに新鮮な感動を覚え、賛嘆の念をもって演奏していることがよくわかる。

後半の《大公トリオ》は骨格の大きい、立派な演奏だったが、筆者には、若書きの第3番がいちばん面白かった。作品1を冠せられたこの作品、若いベートーヴェンの創意工夫が溢れんばかりの曲だが、演奏する3人の若さもそれに共鳴して、実に瑞々しい、覇気に満ちた演奏になっていたと思う。特に第2楽章、変奏形式のアンダンテ・カンタービレでは、小菅の出だしの弱音の美しさに息をのみ、ベートーヴェンならではのユーモアや機知もふわりと余裕を持って表現されていることに唸った。若さと共に、巨匠の風格も漂わせる3人に脱帽である。

このシリーズは生誕250年の2020年を目標に、さまざまに展開されていくとのこと。この先が楽しみである。

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