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東京交響楽団 川崎定期演奏会 第55回|藤堂清

東響東京交響楽団 川崎定期演奏会 第55回

2016年4月23日 ミューザ川崎シンフォニーホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by  林喜代種(Kiyotane Hayashi)撮影:4/24日サントリーホール

<出演>
指揮:ジョナサン・ノット
ソプラノ:チェン・レイス(1)
バス・バリトン&語り:クレシミル・ストラジャナッツ(2)
合唱:東響コーラス(2)

<曲目>
シェーンベルク:『ワルシャワの生き残り』作品46~語り手、男声合唱と管弦楽のための(2)
ベルク:『ルル組曲』(1)
——————(休憩)——————–
ブラームス:『ドイツ・レクイエム』 作品45(1,2)

ジョナサン・ノットを音楽監督にむかえ、定期公演の演目に意欲的なものが増えてきている東京交響楽団、この日のプログラムも彼が得意とするシェーンベルク、ベルクにブラームスをあわせ、<死>をテーマとしたもの。

『ワルシャワの生き残り』は、ホロコーストを生き延びた者の語りと男声合唱による「聞け、イスラエルよ」というヘブライ語の祈りで構成される10分ほどの短い曲。語りは英語だが、殺害者である軍曹の言葉だけはドイツ語で強い命令口調となる。音高の指定のない音符で記譜されたシュプレッヒシュティンメは語り手によってずいぶんと印象が変わるが、この日のストラジャナッツは、一人称でというより、多少客観的な立場での語りのように感じられた。ノットは細かく指示を出し、語られている場面を描き出す。オーケストラも不気味な低弦など表情豊かにそれに応えていた。最後の部分の合唱も気張ることなく歌い、強く心をとらえるものとなった。

『ルル組曲』は、オペラ『ルル』の一部を用いてまとめられたもの、<交響的小品>と名付けられている。ベルクはオペラの第三幕を完成することなく世を去ったので、完成していた二幕までにこの組曲の一部を加えた二幕版での上演が行われてきたが、今ではフリードリヒ・チェルハの補筆による三幕版(1979年出版)が使われるようになっている。この組曲では、第二幕の「ルルの歌」とゲシュヴィッツ伯爵令嬢(女伯爵)の最後の場面での言葉が歌われる。
この日の演奏、オーケストラのみの部分の方が踏み込みが鋭く、音色も豊かであった。ソプラノのチェン・レイスは、イスラエル出身の38歳、声は響いているし、美しいのだが、その歌からは<ルルの魔性>が感じられない。歌詞の中のいくつかの言葉に焦点をあてるだけで、ずいぶん印象を変えることができるはずなのだが。

後半の『ドイツ・レクイエム』は、ゆったりとしたテンポで演奏された。合唱のみの第一曲、第二曲は特に遅めであった。合唱には、かなりの人数(150人を超えていただろうか)が加わっていたが、声を張り上げさせることなく丁寧に歌詞をつむいでいた。オーケストラの安定感もあり、破綻はない。その分、この日の前半の尖った曲目・演奏を受けての死者のための祈りとしては少し穏やかさが勝った音楽になったように感じた。

ノットと東京交響楽団の関係、今後10年間続くことが発表されている。曲によりバラツキはあるものの、彼の指導が浸透してきていることはよくわかる。長期的なスパンで彼らの活動を見守っていきたい。

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