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新日本フィルハーモニー交響楽団第557回、第558回定期演奏会|藤原聡

メルクル新日本フィルハーモニー交響楽団トリフォニー・シリーズ 第557回定期演奏会
新日本フィルハーモニー交響楽団サントリーホール・シリーズ第558回定期演奏会

Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)撮影:4/29サントリーホール

♪新日本フィルハーモニー交響楽団トリフォニー・シリーズ第557回定期演奏会
2016 年4月22日 すみだトリフォニー
<演奏>
指揮:準・メルクル
合唱:栗友会合唱団
合唱指揮:栗山文昭
コンサートマスター:西江辰郎

<曲目>
プーランク:組曲『牝鹿』 FP36
フォーレ:パヴァーヌ op.50
ラヴェル:『ダフニスとクロエ』(全曲)

♪同サントリーホール・シリーズ 第558回定期演奏会
2016年4月29日 サントリーホール
<演奏>
指揮:準・メルクル
ヴァイオリン:豊島泰嗣
ハープ:平野花子
コンサートマスター:西江辰郎

<曲目>
ドビュッシー:民謡の主題によるスコットランド行進曲
ブルッフ:スコットランド幻想曲 op.46
メンデルスゾーン:交響曲第3番イ短調『スコットランド』op.56

準・メルクルは2014年に新日本フィルと初共演を果たした。その際の『幻想交響曲』は、スタイリッシュなフォルムの中に独自の読みを聴かせるユニークな演奏で筆者も強い印象を与えられたのだが、今回はその両者の2年振りの共演。2つのプログラムを両方聴くことができた。

まずは最初のオール・フランス・プログラム(4月22日)。
1曲目はプーランクの『牝鹿』。洒脱な雰囲気は感じられないけれども(もう少し肩の力を抜いた方がいかにもプーランク的になると思うが)、軽快で颯爽としたリズムと明晰な響きはいかにもメルクルらしい。アンサンブルが若干粗い箇所もあったが、まずは佳演。
2曲目のフォーレ『パヴァーヌ』。ここでは筆者には合唱に難があったように聴こえた。いつもの栗友会合唱団らしからぬ不揃いかつやや雑な響きで明らかに洗練味が不足している。オケは典雅さを出すような行き方ではなくて剛直に攻めた感があるので、合唱の多少の粗さはある種の「味」と聴こうと思えば聴けなくもないが、しかしフォーレである。いつもと違うこの響きは少し気になるところだ。

休憩を挟んでメインプログラムのラヴェル『ダフニスとクロエ』。序奏冒頭のpppが意外に大柄な感じで始められたが、最初のf に至る過程でテンポを上げて行ったり、その後の<宗教的な踊り>でも速いテンポで抑揚を付けずにストレートに歌わせたりと、メルクルの個性は歴然としている、総じて、抒情的な箇所よりはテンポの速い激しい箇所においてメルクルの歯切れのよい指揮と新日本フィルのクッキリとして立ち上がりの良い響きの長所が生かされていて素晴らしいのだが(その意味では<戦いの踊り>や第3部の<全員の踊り>は出色)、より表現の幅の広さがあれば…、という印象は拭えない。言うならば「柔らかさ」も欲しいのだ。良い演奏には違いはないが、2日目の23日はもっと練れた演奏となった可能性はあろう。

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次に29日。この日のプログラムは3曲共にスコットランドにちなんだ曲。
最初のドビュッシー『民謡の主題によるスコットランド行進曲』は実演ではなかなか聴けないレアな曲だろう。バグパイプのドローンを模倣した箇所などは聴いていて楽しいが、メルクルはこの曲に特徴的な響きを的確に掬い取る。しかしこれ見よがしなやり過ぎにはならずにセンスが良い。弦楽器と木管の響きの対比の付け方の上手さが楽曲に立体感を付与する。
2曲目は新日本フィルのソロ・コンサートマスター(もちろんソリスト活動も能くする)豊島泰嗣がヴァイオリンを、ゲストとして平野花子がハープを弾いたブルッフの『スコットランド幻想曲』。これもまたよくあるイメージとはやや異なる印象の演奏で面白かったのだが、やはりメルクルの作り出すオケの音が剛直で、さらにはこの曲でともすると感じられるノスタルジックな雰囲気作りにも拘泥しない印象。ヴァイオリンもその方向に寄り添っていたが、ここでの豊島のソロは表情の変化にいささか乏しく、一本調子であった感が否めない。平野のハープは、楽曲自体がそこまでハープをフィーチャーしたものではないとは言え、しっかりと存在感をアピールした。

メインはメンデルスゾーンの『スコットランド』。筆者が接した今回の2回のコンサートの中で明らかに最高の演奏だった。重厚長大かつ過度にロマン的な態度は戒められる。節度があり、上品で、しかし決然として快速なテンポでキビキビと進められる(しかし、終楽章に突入する際の「気合い」の呼吸と鋭い一振りには圧倒された)。但し、ただそれだけではなく響きと表情の変化の付け方がデリケートでまた上手く、それは第1楽章の第1主題のすばらしく柔らかくかつ繊細な音色作りとセンシティヴな歌わせ方に明らか(こういう「幅」を『ダフニスとクロエ』でもより聴きたかったところなのだが…)。
メンデルスゾーンはむろんロマン派だが、情念や情感があまりに濃厚になってはこの作曲家ではなくなってしまう。恐らくはメルクルの資質がメンデルスゾーンに殊のほか合うのではないか、と思ったりもする。表面は基本的に端正にして、内面的にはそれだけに留まらないパッションと表現意欲があり、好調な時、あるいは適合性の高いレパートリーを振る際にはこれらがせめぎあって繊細にして複雑な演奏を生み出すのだが、そこに準・メルクルの最良の個性を見る。

最近は東京交響楽団や読響、大阪フィルなどにも登場している準・メルクル。来シーズンは日本のオケへの客演はないようであるが、新日本フィルも含め、早い段階での再登場を期待しておこう。

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