デュリュフレ《レクイエム》|藤堂清
東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.3
デュリュフレ《レクイエム》
~奇蹟の響きと荘厳な調べ ― 20世紀最高のレクイエム
2016年4月17日 東京文化会館 大ホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 堀田力丸(1,2,3)、青柳聡(4)(写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会)
<演奏>
指揮:レオ・フセイン
メゾ・ソプラノ:ロクサーナ・コンスタンティネスク
バリトン:クリストファー・マルトマン
オルガン:長井浩美
管弦楽:東京都交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:マティアス・ブラウアー、宮松重紀
<曲目>
ヴォーン・ウィリアムズ:《トマス・タリスの主題による幻想曲》
ヴォーン・ウィリアムズ:《5つの神秘的な歌》(詩:ジョージ・ハーバード)
1)「イースター」
2)「私は花々を用意した」
3)「愛は私を温かく迎えてくださった」
4)「召命」
5)「アンティフォン(応答頌歌)」
——————-(休憩)——————-
デュリュフレ:《レクイエム》 op.9
2016年の東京・春・音楽祭の最後の演奏会、2014年から始まった合唱の芸術シリーズの三回目、20世紀に活躍した二人の作曲家、イングランドのレイフ・ヴォーン・ウィリアムズとフランスのモーリス・デュリュフレの作品がとりあげられた。
一曲目の《トマス・タリスの主題による幻想曲》は16世紀のイングランドの作曲家の宗教作品をテーマとしたもの。オーケストラの弦楽パート、各パート1プルトの小編成な弦楽、そして弦楽四重奏という編成の曲。この日は小弦楽合奏は通常であれば管楽器が並ぶ位置に一列に配置され、弦楽四重奏はオーケストラ側の首席奏者が自席で弾いた。
指揮者のレオ・フセインは長身を活かした大きな動作で、この三つの合奏を指揮、オーケストラから小合奏に移行すると音像が凝縮し、同時に遠ざかるといった違いを聴かせてくれた。
《5つの神秘的な歌》は、バリトン、合唱、管弦楽という編成で演奏された。歌詞は英語であり、英国生まれのマルトマンにとっては歌いやすい曲ではないかと思っていたのだが、全体的に力みがあり、言葉も旋律もスムーズに流れない。フセインのていねいな音楽づくりとぶつかってしまう印象を受ける場面もあった。最後に合唱だけが歌う「アンティフォン」が良かったので納得。
若手と思っていたマルトマンも45歳、体や声の変化を考える年なのかもしれない。
後半はこの日のメイン曲目、デュリュフレの《レクイエム》、フォーレの《レクイエム》を意識した構成となっている。「怒りの日」が省かれている、「オッフェトリウム」と「リベラ・メ」にバリトン独唱が、「ピエ・イエズス」に女声独唱が加わる、最後に「イン・パラディスム」が加えられていることなどである。
音楽的には「グレゴリオ聖歌」の単旋律を取り込んでいることが特徴としてあげられるが、全体としてみれば20世紀の和声でつらぬかれている。
抑えた部分での合唱の響きの美しさ、大きな声を必要とする場面でも、無理に張り上げることはない。東京オペラシンガーズの力を感じさせてくれた。オーケストラも弦を中心に充実した演奏。あまり出番の多くない独唱者だが、二人ともまずまずのできばえであった。
東京・春・音楽祭、はじめのうちはいつまで続くだろうかと思っていたが、すっかり軌道にのってきたようだ。幅広い聴衆を集めることにも成功しているし、意欲的なプログラムも見られる。単独では招聘しにくい演奏家やプログラムなどは、アジア、オーストラリアの他の都市やコンサートホールと共同開催することも検討してみてはどうだろうか。さらなる発展を期待したい。