小森谷 泉×小森谷 巧 兄弟の音宇宙|谷口昭弘

2016表面_ol小森谷 泉×小森谷 巧 兄弟の音宇宙 〜最高の仲間を迎えて〜

2016年3月13日 紀尾井ホール
Reviewed by 谷口昭弘 (Akihiro Taniguchi)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
ピアノ:小森谷 泉
ヴァイオリン:小森谷 巧
ヴァイオリン:小杉芳之
ヴィオラ:佐々木 亮
チェロ:古川展生

<曲目>
モーツァルト:幻想曲 ニ短調 kv397 (385g)
モーツァルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第28番 ホ短調 kv304 (300c)
モーツァルト:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 kv478
(休憩)
シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 Op. 44
(アンコール)
シューマン:《トロイメライ》

小森谷泉の独奏によるモーツァルトの『幻想曲』、アルペジオ一つひとつを確かめるように重々しく始められ、感傷的な衝撃を随所に織り込みながら、メランコリックな余韻を残す。長調になってからは、溢れる喜びが流れるシンフォニックな音楽が展開された。

小森谷巧を迎えての『ヴァイオリン・ソナタ』では、麗しいピアノと朗々としたヴァイオリンにより、神秘的な冒頭部分から、自然な音楽が紡ぎだされる。しばしばモーツァルトやベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタはピアノが主導権を握るということが語られるが、今回の演奏は、どちらが音楽をリードしているということを意識させないシームレスな感覚が印象に残った。実際、明らかにヴァイオリンが旋律を担当する部分があるのだし、軽やかな歌が爽快に聞こえてきた。 第2楽章でも、二人は互いの音楽をどのように聞かせるのかを熟知しており、ヴァイオリンがアルペジオを奏する時は、一瞬にしてそれが聞こえなくなるくらいヴァイオリン・パートに譲る一方、二重奏となる部分では、寄り添って流麗に歌っていく。一見淡々としているのだが、時々立ち止まり、全休止から始まる箇所など、自然な呼吸によって時間がつながれ「合わせている」ことさえ感じない。そして第3楽章では一気に盛り上げ、華麗に楽章を閉じた。

モーツァルトの『ピアノ四重奏曲第1番』においては、ダイナミックなピアノにつづいて、しなやかな弦楽アンサンブルが聞かれた。小森谷泉はアンサンブル全体にみなぎる躍動感を与える一方、ふくよかで、再現部直前にぐっと深まる箇所には推進力を加えていた。第2楽章ではピアノと弦楽の役割をそれぞれ自覚しつつ、流れは実にスムーズだった。楽想に応じてアンサンブルの形や、支配する空間の大きさが自在に変化したのが印象に残った。 圧巻だったのは第3楽章で、大きなスケールなのに、刺々しさがなく、隙間のない流れによって熱のこもったフィナーレが形成された。

休憩を挟んで、シューマンの『ピアノ五重奏曲』はテンポを揺らして大胆に、そして堂々とした第1楽章から始まった。しかし第2主題の提示部では、古川展生を筆頭に、しっとりとしたリリシズムが湛えられた。第2楽章は、バランスに細心の注意が向けられ、音楽自身の優雅さとは裏腹に、ぴりっとした緊張感があり、全員による中間部の波打つような歌の世界との違いが明確だった。嵐のようなスケルツォにはアクセントを巧みに生かす宴でもあり、ここでも揺るぎない音楽が聞けた。第4楽章は、その柔軟な楽想の変化に攻める方向で対峙。最後までエネルギーを保つという点では、ペース配分の難しさも感じたが、コーダのフーガに至るまで勢いを阻害する要素は感じられなかった。

心から気の合った音楽家たちによる至極のアンサンブルを聴いた。またこんな機会に恵まれたいものだ。

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