ヴェルディ:オペラ《イル・トロヴァトーレ》|藤堂清
東京二期会オペラ劇場
オペラ《イル・トロヴァトーレ》
-パルマ王立歌劇場とヴェネツィア・フェニーチェ劇場との提携公演-
2016年2月21日 東京文化会館
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<曲目>
ヴェルディ:オペラ《イル・トロヴァトーレ》
<スタッフ>
指揮:アンドレア・バッティストーニ
演出:ロレンツォ・マリアーニ
美術:ウィリアム・オルランディ
照明:クリスチャン・ピノー
演出補:エリザベッタ・マリーニ
合唱指揮:佐藤 宏
音楽アドヴァイザー:田口興輔
舞台監督:佐藤公紀
公演監督:直野 資
<演奏>
レオノーラ:松井敦子
マンリーコ:小原啓楼
ルーナ伯爵:成田博之
アズチェーナ:中島郁子
フェルランド:清水那由太
イネス:杣友惠子
ルイス:大野光彦
老ジプシー:杉浦隆大
使者:前川健生
合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京都交響楽団
アンドレア・バッティストーニ、1987年、イタリア、ヴェローナ生まれの若手指揮者。二期会への登場は、《ナブッコ》、《リゴレット》に続き三演目となる。東京フィルハーモニー交響楽団では首席客演指揮者に就任し、定期公演の指揮台に立つことも多く、その際にライブ録音されたプッチーニの《トゥーランドット》のなどのCDは評価が高い。
今回の公演も彼の実績からみて熱い演奏が期待された。一方、オーケストラが今回は東京都交響楽団で、彼との共演が多い東京フィルハーモニー交響楽団でないという不安もあった。残念ながらそれが少なからず当たってしまったようだ。
バッティストーニの指揮は、ダイナミクスの大きさ、フレージングの長さに特長があり、さらに音楽の変化に対応するときの瞬発力がある。東京都交響楽団の音や演奏は安定感はあるのだが、彼の指揮への反応に少し「重さ」を感じさせるものであった。それが音楽の「勢い」を弱めていたように思う。
もっとも、オーケストラだけでなく彼の側にも原因があったのかもしれない。東京二期会のサイトに、インタビュー記事がある。その中で、「『イル・トロヴァトーレ』には、作品としての“弱さ”を感じる」「『イル・トロヴァトーレ』は伝統的なベルカントの作品だといえます。」と述べている。音楽そのものに語らせるというのではなく、何か付け加えなければという意識もあったのだろうか。
音楽面では、勢い、弾みといった点に不満は感じたが、歌手は一定の水準は充たしていた。とくに女声陣、アズチェーナの中島とレオノーラの松井はこのオペラの「ベルカント」的特質をよくつかみ、細かな音型を丁寧に歌っていて好感が持てた。男声のうち、マンリーコの小原は、出演予定であった前回公演では体調不良での降板となっていたので、この日だけの登場となった。強めの声で、今後持ち役を増やしていけるよう期待したい。成田と清水の二人の低音歌手は、全体に含み声が目立ち、その大小と関わりなく、会場へ届く響きが均質でない。改善の余地があるだろう。
舞台は美しい。パルマ王立歌劇場とヴェネツィア・フェニーチェ劇場との提携公演ということで、どの場面でも全体の色がみごとに調和している。人の動きもしっかり演出意図に対応していた。
舞台奥には大きな月がいつも出ている。その月の色が、登場人物の気持ちや、場面の動きに伴って変化していく。大きな舞台装置を使わずに、こういった象徴をうまく利用するのも「イタリア的」かと感心。
一つの劇場だけで一つのプロダクションを作ることは費用面でむずかしくなっており、このような共同制作や提携は、ますます増えてくるだろう。いくつかの劇場との継続的な関係を続けていき、いずれは日本制作の舞台を海外に出していけるようになればと期待する。