フランチェスコ・コルティ|藤堂清
フランチェスコ・コルティ チェンバロ・リサイタル
~J.S.バッハ、そして同時代の音楽家たち~
2015年12月20日 成蹊学園 本館大講堂
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<曲目>
ゲオルク・ベーム:前奏曲、フーガと後奏曲 ト短調
ヨハン・アダム・ラインケン:組曲第1番 ハ長調
J.S.バッハ:前奏曲、フーガとアレグロ 変ホ長調 BWV998
J.S.バッハ:カプリッチョ「最愛の兄の旅立ちにあたって」 変ロ長調 BWV992
——————-(休憩)——————–
ヘンデル:組曲第8番 ヘ短調 HWV433
テレマン:ブルレスケ序曲 ニ短調 TWV 32:2
J.S.バッハ:フランス風序曲 ロ短調 BWV831
—————-(アンコール)——————
クープラン:クラヴサン曲集 第2巻 第6組曲 変ロ長調 神秘的なバリケード
フレスコバルディ:トッカータ
浮き立つようなリズム、色彩感あふれる音、ときおり交えるわずかな間合いが効果的に音楽の表情を作り出す。体が自然に反応し揺れ動いてしまう。チェンバロからこれほど豊かな音楽が生み出されるとは!
フランチェスコ・コルティは1984年イタリア生まれ、チェンバロ、フォルテピアノ、オルガン奏者として多くの古楽グループと共演、またソロ活動も行っている。
コルティは、2009年にマルク・ミンコフスキがミュジシャン・デュ・ルーブルを率いて来日した際、フォルテピアノなどの通奏低音を担当していた。アンコールでミンコフスキは、彼にハイドンのチェンバロ協奏曲(Hob.XVIII-11) 第3楽章を弾かせた。その表情の豊かな演奏でコルティの名前を記憶し、今回のソロのコンサート、楽しみにしていた。
バッハが中心ではあるが、同時代のヘンデル、テレマン、そしてバッハに影響を与えたベーム、ラインケンの作品を加えた多様なプログラム。アルマンド、クーラントといった舞曲の違いを知らなくとも、体はその拍子にしたがう。会場全体がそういった様子に見えた。
チェンバロという撥弦楽器、ストップ(レジスター)といった機構を利用しても音色や音量の変化は大きくはない。コルティの音はそんな限界を感じさせない多様さをもっている。前半の最後に置かれた『カプリッチョ』にそれがよく活きていた。
後半の三作品は、それぞれ作曲家の個性がよくわかるもの。テレマンのユーモアが感じられる曲、面白く聴かせてくれた。
次の機会には、すでに録音のあるクープランなどのフランスものを取り上げてもらいたい。
(追記)
このリサイタルは武蔵野文化事業団の主催だが、普段使われる武蔵野市民文化会館小ホールではなく、成蹊学園の本館大講堂で行われた。文化会館が2016年4月から改修に入り、使えなくなるため、その代替施設の候補として行われたものだろう。天井が高く、響きはなかなか良い。椅子の座り心地やトイレなど制約はあるだろうが、改修期間中、事業団が活動を続ける助けにはなるだろう。
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ジャーマンタイプ 2段鍵盤チェンバロ(M.ミートケ モデル) Jan Kalsbeek(オランダ)製作(2000年)使用