Back Stage|いずみシンフォニエッタ大阪

Back Stage

いずみシンフォニエッタ大阪

text by 森岡めぐみ(Megumi Morioka)

いずみシンフォニエッタ大阪ロビー1(C)樋川智昭 中

撮影:樋川智昭

いずみシンフォニエッタ大阪は、全国的にも、いや、世界的にも(たぶん)珍しい、民間ホール所有の、現代音楽演奏を主目的とする、室内オーケストラです。いずみホール開館10周年の2000年に、作曲家の西村朗さんの呼びかけで結成されました。西村さんが現代音楽シリーズ「音楽の未来への旅シリーズ」の企画監修を引き受けてくださったときに、ただ企画を並べるだけではなく、ホールは自前の楽団を持つべきだ、との提案があったのです。いずみホールのごく近くで生まれ育った西村さんは、深い思い入れを大阪にお持ちでした。そこで、西村さんを音楽監督に、常任指揮者は飯森範親さん、コンサート・ミストレスは小栗まち絵さん、管楽器のリーダーはトロンボーン奏者の呉信一さんで、いずみシンフォニエッタ大阪は誕生しました。メンバーは関西在住、あるいは出身にこだわり、ソリストとして活動中の方、オーケストラの首席奏者などの顔ぶれが並び、志を同じくする士気高い集団となりました。弦5部、1管編成にハープ、ピアノという多彩で機動力ある室内オーケストラです。「公用語は大阪弁、地元にこだわったメンバー選びはウィーン・フィルと同じですね!」と申し上げると「君、大きく出たね」と苦笑する西村さん。

第35回定期演奏会 341

撮影:樋川智昭

そしてそれから15年。いずみシンフォニエッタ大阪は年2,3回の演奏会を重ね、世界初演35作品(うち楽団委嘱作品は27作品)、日本初演12作品を世に出してきました。実績は重ねているとはいえ、集客面では苦労の連続です。演奏会プログラムでは名の知れた近代作品と組み合わせるなど工夫し、広報と営業もエンジン全開です。そもそも現代音楽の“業界”がない大阪では、いかにふつうの音楽ファンを惹きつけることができるか、が勝負の分かれ目になるのです。楽団サポーター制度をつくり年間通し券を発売、DMを送付してリハーサル見学会を行う、終演後に交流の場を設けるなどファン作りをベースに、Facebookページでこまめに情報を発信、コンサートの聴きどころをビデオで解説(次回公演)、YouTubeページで過去の演奏アーカイブを無料配信。コンサート会場ではウエルカム演奏でお客様をお迎え、音楽監督や指揮者が舞台上でぶっちゃけトークを繰り広げる、学生券は1000円均一にするなど、あの手この手がてんこ盛りとなったサービスは、ナニワ精神でしょうか。もちろん楽団運営には多額の資金が必要であるため、補助金、企業協賛金をあつめるためにも行脚します。残念ながら大阪府・市からの支援を望むのは難しい状況。民間のホールがこんな活動を15年以上も続けていくのは、伊達や酔狂じゃないんです、いや、伊達や酔狂なのかも??いえいえ、これは将来を見すえた、文化による地域貢献なのです。

西村朗わたしがこの楽団に関わってもっともやりがいを感じる瞬間は、演奏を終えた直後です。難しい技もこなしながら作品の全体像を鮮やかに描き出した演奏家たちと、未知の領域を体験した聴衆の方々が共有する、えもいわれない爽快感!「ここでしか、ない」という実演芸術の本領発揮ですね。とくに音楽監督である西村朗作品の演奏は、特別な意味を帯びます。西村朗の室内交響曲シリーズはすべていずみシンフォニエッタ大阪のために書かれてあり、ひとりひとりの楽団員を想定して音符が存在する、希有な座付き作品群なのです。

2月6日(土)での「第36回定期演奏会」では、久しぶりにその室内交響曲の新作が発表されます。タイトルは、第5番『リンカネイション』。前作に引き続き、テーマには生と死が浮かび上がります。前作の第4番『沈黙の声』では、亡き人に呼びかけ続けても、返ってくるのは沈黙、という絶望にも似た慟哭が作品を覆いましたが、今回の作品ではそこに光がさしてくるようです。西村さんによると、第1楽章は<後奏曲と間奏曲>からなり、間断なく演奏される第2楽章は<めざめ>を意味し、ソプラノの女声が加わります。『新古今和歌集』の巻第一「春の歌 上」から選ばれたテキストが、最初は切れ切れに、そしてついには形をなしてソプラノで表現されるとか。一度終焉した命が、時を経て、再生に向かう。わたしは本シリーズに西村さんの極私的な心象風景を見てしまうのですが、西村さんがお母様を亡くされた後に発表した『沈黙の声』の静謐から、少しずつ、少しずつ意識がこの世に戻ってくるような、ぬくもりが増してくるような、この新作の構想に、そんな温度を感じました。女声を担当するのは、現代歌曲の歌い手として、日本でも海外でも注目を集める新星、太田真紀さん。彼女も大阪っ子です。大阪に根ざした、しかし同時にユニバーサルな楽団の歩みは、次の階段を登りはじめるときが来たのでしょうか。

森岡めぐみ(いずみホール)
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公演情報
いずみシンフォニエッタ大阪 第36回定期演奏会「魅惑のイタリアン&誕生《第5》!」
2016年2月6日(土)16:00
http://www.izumihall.jp/schedule/concert.html?cid=933&y=2016&m=2