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パノハ弦楽四重奏団 with 岡田博美|佐伯ふみ

panochaConcert Review

パノハ弦楽四重奏団 with 岡田博美

2015年12月2日 浜離宮朝日ホール
Reviewed by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
パノハ弦楽四重奏団

イルジー・パノハ(第1ヴァイオリン)
パヴェル・ゼイファルト(第2ヴァイオリン)
ミロスラフ・セフノウトカ(ヴィオラ)
ヤロスラフ・クールハン(チェロ)

岡田博美(ピアノ)

<曲目>
モーツァルト:弦楽四重奏曲第1番ト長調「ローディ」K.80
シューベルト:弦楽四重奏曲第10番変ホ長調D.87
シューマン:ピアノ五重奏曲変ホ長調Op.44

岡田博美の変貌 出色のシューマン

チェコを代表する弦楽四重奏団パノハSQは、結成以来メンバーが一人も変わらないまま45年を迎えた希有のアンサンブルである。今回の公演では後半にシューマンのピアノ・クインテットを配し、このところ毎夏の草津音楽祭で共に講師を務めて交流を深めている、岡田博美をソロに迎えたプログラムを組んだ。

超絶技巧を誇り、精確なアンサンブルをぎりぎりまで研ぎすますことを競い合う弦楽四重奏の世界で、パノハSQの自然体は聴く者をほっとさせる、独特の温かさをもっている。柔らかな音色、実に繊細なフレージングの入りと終わり、衒いも外連味もない音楽づくり。
今回の公演でもその美点がいかんなく発揮されていた。特に前半のシューベルト。第2楽章のスケルツォから第3楽章のアダージョにかけて、これぞシューベルト!と思わず口にしたくなるくらい。落ち着いて節度ある音楽の、なんとドラマティックで雄弁なことか。

後半のピアノ・クインテットでは雰囲気が一変。岡田博美のアグレッシヴなピアノに触発されて、渾身の勝負と言いたくなるようなスリリングな演奏が展開された。

岡田は素晴らしい技術の持ち主で、どんな超絶技巧の作品でも、表情も変えずにあたりまえのように弾ききってしまうピアニスト。だが、淡々としすぎているのが難で、聴いていて感興が今ひとつと感じることも一再ならずあった。ところがこの公演ではまるで別人のよう。
蓋を全開にしたピアノを全力で鳴らし、カルテットへの遠慮などみじんもなく、まるで勝負を挑むかのように、前へ前へと音楽をリードしていく。
前半がカルテットのみ、後半にピアノが加わるアンサンブルとなると、ピアノと弦楽器の音色の違いがいやでも際立って、いわば「打楽器」であるピアノの異物感が消えず、浮いて聞こえてしまうことも多い。
ところが不思議なことに、少し音量が大きすぎではと思われるような全力のピアノとカルテットの響きが見事に溶け合い、渾然一体と一つの音楽を作り上げていた。シューマンのこの名曲は今まで何度聴いたかわからないが、これは確実に指折りの名演と言える。

喝采を送りながら、感嘆の声を交わしあう客席。
「ふぅん、こんなピアニストがいるとはねぇ!」
隣席の男性が思わずあげた嘆声である。

そうなのだ、定評ある演奏活動を長く続けている岡田だが、まだまだ知名度は高くない。
しかし、こんなに素晴らしいピアニストがいるのだ!
筆者もまた、改めて声を大にして言いたくなった。

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