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Kuniko plays Reich | 藤原聡

Concert Review

katoKuniko plays Reich スティーブ・ライヒ傘寿を祝う
2015年10月8日 白寿ホール

Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
加藤訓子

<曲目>
スティーブ・ライヒ/加藤訓子:エレクトリック・カウンターポイント
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻-前奏曲第1番 ハ長調 BWV846
スティーブ・ライヒ/加藤訓子:シックスマリンバ・カウンターポイント
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007-プレリュード
アルボ・ペルト:アリーナのために
スティーブ・ライヒ/加藤訓子:ヴァーモント・カウンターポイント
J.S.バッハ:「マタイ受難曲」-コラール
スティーブ・ライヒ/加藤訓子:ニューヨーク・カウンターポイント
(アンコール)
ハヴィエル・アルヴァレズ:「テマスカル」

この10月8日と9日に、白寿ホールにてそれぞれ<スティーブ(原文ママ)・ライヒ傘寿を祝う><アルボ(原文ママ)・ペルト傘寿を祝う>と銘打たれたコンサートが開催されたが、筆者はその初日、ライヒの一夜に接した。と言ってもプログラムはライヒだけではなく、ライヒの間にJ.S.バッハの作品が挟まり、さらに翌日を予告するという意味でペルトの楽曲が1曲。ライヒはカウンターポイント系の作品がメインのプログラムであるが、元来『エレクトリック・カウンターポイント』はエレクトリック・ギター、『ヴァーモント~』はフルート、『ニューヨーク~』はクラリネットの生演奏とそれぞれテープによる作品。それをマリンバを初めとした各種パーカッション(と、あらかじめ録音しておいたテープ)用に加藤がアレンジしている。ホールのステージ上中央と前方寄りにはマリンバやスチールパン、グロッケンが鎮座。それを細長いスピーカー5本がぐるっと取り囲む。演奏者は四方ならぬ「五方」からのテープ音と演奏し、リスナーはその一体化された全体を客席から聴く。冒頭と曲間には加藤のトークが挟まれたが、ライヒとの関係や楽器のことなど、実に面白い。

最初の『エレクトリック~』はいきなり舞台前方のスチールパンから演奏が始まり、これを聴くとまるでライヒらしからぬ(というのは当方の先入観?)南国的で開放的な空気が漂う。しかしこれが慣れると逆に面白い。その後にはヴィブラフィンとマリンバに受け継がれるのだが、この流れが実に見事だ。躍動感も感じられ、ともすると単一の音色や雰囲気になりかねない(名手ならばそんなこともないのだが、打楽器というものの仕組み自体からすれば相対的に単調になるのは否定できない)パーカッションでの演奏、という危惧を完全に吹き飛ばす。オリジナルより良い/悪い、などの話ではなくこれは1つの別の傑作足りえている。ちなみに、元々は「カウンターポイント」名義ではない曲は『シックスピアノ・カウンターポイント』で、これは6台のピアノのための『シックス・ピアノ』が作曲者自身のアレンジで6台マリンバのための『シックス・マリンバ』となり、それを作曲者の了承を得て加藤がソロとテープ用にアレンジした形。それをライヒが認め、「カウンターポイント」命名となったそうである。これもまた原曲(ピアノの方。マリンバ版は未聴)にはない味があり、1人+テープであるがゆえに非常に正確に再現されているわけで、そのためカウンターポイントの綾というか妙味がよりヴィヴィッドに届けられているという気がする。マリンバ6人版はどうなのだろうか。いずれにしても作曲者が喜んだのも頷ける。この2曲が最も印象深かった当夜のライヒ演奏であったが、他の「カウンターポイント」系作品もそれぞれ見事であった。また、「箸休め」ではないけれど、間に挟まれたバッハ作品もすばらしい。こうして併置してみると、秩序への指向性の純粋な悦びと、そこから現れる遊戯性とでライヒとバッハには時代を飛び越えて意外に通底するものがあると感じる。ただし、マタイ受難曲はかなりロマンティックだったけれど。そして「予告」のペルトもひたすら美しい。ところでアンコールが強烈。加藤さん、何度目かのカーテンコールで拍手を制止、その瞬間にいきなりスピーカーから爆音が。両手にマラカスで音楽が鳴り始める。ハヴィエル・アルヴァレズなるメキシコの作曲家の『テマスカル』という珍(?)曲。空気は完全に「エル・サロン・メヒコ」。ステージ狭しと(客席にも降りた)マラカスを持って狂騒的に動き回るさまを見て、大変楽しんだのと同時に先ほどまでライヒとバッハを演奏していたのと同じ人とはいささか信じ難い(笑)。

余談だが、白寿ホールはロビーが狭く当夜は自由席であったためによりごった返した印象だが、ホールが7階にあるのと周囲は代々木公園で落ち着いた風情、明るすぎないので遠くの新宿のビル群も映える。LINNのオーディオも設置、ワンドリンクサービスもあった。なかなかでした。

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