注目の1枚 |HAGEN QUARTETT:MOZART|藤原聡
text by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
モーツァルト:弦楽四重奏曲第14番 ト長調KV387「春」、同第17番 変ロ長調 KV458「狩」
ハーゲン・クァルテット
録音:2014年12月、ブレーメン、ゼンデザール
MYRIOS CLASSICS
番号:MYR017
レーベルのフェイスブックページによれば、ドイツとオーストリアでは2015年11月に、それ以外では2016年1月に発売予定の当CDをなぜここで紹介するのかと言えば、最近の彼らの来日公演会場で特別に日本ツアー用に前倒し販売されていたので入手できたということと、この演奏内容がまた面白く問題含みであるから。第14番のいわゆる「春」の冒頭からして、その独特のフレージングとルフトパウゼ、トリルに仰天する。大体において、彼らの演奏は言葉の素朴な意味での「自然さ」がない。どこをとってもある意味でアーティフィシャルである。4つのパートの音量バランスの浮き沈みであるとかディナーミクであるとかテンポの対比であるとか、とにかく考え抜かれている。ピリオド奏法の特徴を取り入れてしばしばノンヴィブラート奏法を採用するし、メロディを歌わせない。構築性を重視する。それは演奏する作品との一体化というよりは、全てを徹底的に吟味した上で突き放して客体化している、とでも形容できよう。聴き手に快楽に浸るだけではなく、ある種の「齟齬」を与えることによって批評的な聴取を求めているように思える。冒頭に記した箇所以外にも驚きだらけの当演奏(乞うご期待!)、モーツァルトの音楽に安らぎや「美しさ」を求める方は聴いてはなりませんよ。しかし、別種の世界を提示してくれることは請け合います。SACDハイブリッド、音質優秀。