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作曲家の個展2015 原田敬子|藤原聡

Concert Review

haradaサントリー芸術財団コンサート作曲家の個展2015 原田敬子
2015年10月27日 サントリーホール

Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
アンサンブル・モデルン・メンバー+桐朋学園オーケストラ
指揮:中川賢一

<曲目>
「響きあう隔たりⅢ」(2000‐2001) 富山市民文化事業団委嘱、第11回芥川作曲賞受賞作品

プリペアド・ピアノ:稲垣聡
アコーディオン:シュテファン・フッソング
打楽器:加藤訓子
音響:曽根朗

「第3の聴こえない耳Ⅲ」(2003) 第11回芥川作曲賞受賞記念サントリー芸術財団委嘱

「ピアノ協奏曲」(2013-15 世界初演)

ピアノ:廻由美子

「変風」(2015 世界初演) サントリー芸術財団委嘱

サントリー芸術財団による作曲家の個展2015、原田敬子作品による一夜。当夜の注目は、後半2曲の世界初演作品、『ピアノ協奏曲』『変風』であろう。筆者は原田作品を聴くのはほとんど初めてであるが、このコンサートで演奏された4曲の中では、個人的にはこの『ピアノ協奏曲』が特にすばらしく感じる。冒頭、ソリスト廻由美子のピアノの前に立ったままの内部奏法から始まり、その手は楽器内部と鍵盤をその都度往復する。ピアニストには恐るべき超絶技巧が求められるものと想像されるが、全体の印象は激しさではなく何か「ここではないどこか」をあてどなく希求しているかのような、あるいは何か方向感覚が失調したかのような浮世離れした不思議な静謐さに支配されており(特に印象的なのが弦楽器群の恐ろしく極小のピチカートがソリストの背景を支えるシーン)、こういう感覚は他の作品ではほとんど味わった記憶がない。こういう「今までの既知の感覚を拡張させてくれる点」が現代作品を聴く醍醐味であろう。そして最終曲の『変風』では、むしろオケの書法は尖ったものからいささか後退した、敢えて言えば「分り易い」ものとなっていたが、率直な印象では『ピアノ協奏曲』ほどの新鮮さは感じられない。前半曲では1曲目『響きあう隔たりⅢ』が素敵な曲。ここではソリストが3人、プリペアド・ピアノ(!)に稲垣聡、アコーディオンにシュテファン・フッソング、パーカッションに加藤訓子。1階客席中央部にはヴァイオリン・アンサンブルが陣取る。音は鳴ってはいるのだが鳴っていない趣。フッソングは楽器の蛇腹を音を出さずに伸ばしたり縮めたり。カリンバやウォータードラムまでもが導入される。かすかに音は聴こえるが、分節化された「楽音」ではない。そういう瞬間が集積されている。この夜のオーケストラは桐朋学園オーケストラの中にアンサンブル・モデルンのメンバー7名が加入した形を取っていたが、彼らの献身的な演奏は特筆に価する。これらの超・難曲を非常に満足の行く水準で演奏し切っていた。指揮は中川賢一。

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