Back Stage|王子ホールの「MAROワールド」

Back Stage

完全ホームメイド、心尽くしの「MAROワールド」
text by 星野桃子(Momoko Hoshino)

王子ホールは、東京・銀座4丁目に建つ王子ホールディングスのビル内に在る315席の室内楽専用ホールです。隣接するデパートの喧騒から離れてホールに足を踏み入れると、そこにはおよそ2時間の非日常の時間が流れます。私たちホール・スタッフは、その2時間を満喫していただけるよう、年間40の主催コンサートのひとつひとつに思い入れを込めて企画しています。親子代々ホールを愛していただけますように、ホールからの帰り道を幸せな気分で歩いていただけますように。
今回は、そんな思いを凝縮した手づくりコンサート、「MAROワールド」の裏側をちょっとご紹介しましょう。

(c)王子ホール/撮影:藤本史昭

(c)王子ホール/撮影:藤本史昭

「MAROワールド」は、“まろ”の愛称で親しまれているNHK交響楽団のコンサートマスター、篠崎史紀氏(以下まろさん)と王子ホールが創る音楽の社交場です。2004年にスタートして以来26公演、10年以上に亘りチケット即日完売を続けている大人気のシリーズ・コンサートです。毎回ひとりの作曲家をテーマに、演奏とトークとちょっとした趣向を凝らして、お客様、演奏家、スタッフの全員が楽しむことを心掛けての完全ホームメイド。
春・秋シーズンとニューイヤーの年3回のコンサートを、2~3年先を視野に入れて、まろさんと作曲家、曲目、出演者などについてディスカッションを重ねて創りあげていきます。その折々に、まろさんが口にする言葉があります。「お客さんは喜んでくれるかなあ」。
私たちはその度に、立ち止まったり、逡巡したり、励まし合ったり。“ものづくり”とは、そういう時の積み重ねでもあります。

「MAROワールド」では若手演奏家に活躍してもらうことに重きを置いていますので、彼らを聴くことから始まって実現まで時間を要します。シリーズ最初の頃は海外留学中、或いは帰国したてだった彼らは今や国内オーケストラの首席の座を占め、ニュー・リーダーとして音楽界を牽引していますし、次の世代も追いつけ追い越せで元気いっぱい。そんな彼らに年に一度集ってもらっているのが、弦楽アンサンブル“MAROカンパニー”です。何せ忙しい人たちなので、リハーサル含めスケジュール合わせが至難の業。更に異ジャンルの方をゲストに招くこともあって、いつもギリギリの作業です。
リハーサルは本番前の数日間、夜9時過ぎから終電までホールで行います。夜毎繰り広げられる名物「MAROワールド」の深夜リハーサルです。皆さん、オーケストラや他ホールのコンサートから駆け込んで来て、「もう指がまわらなーい」と言いながら練習が始まると本気モード。頭が下がります。立ち会いの私たちも体力の限界まで行きますが、彼らの姿、楽しそうな顔、まろさんが若い人の持っている才能をどんどん引き出して、アンサンブルが仕上がっていく様を目の当たりにできる感動は何にも替え難い宝物です。

(c)王子ホール/撮影:藤本史昭

(c)王子ホール/撮影:藤本史昭

そして「MAROワールド」では、作曲家が生きた時代を味わっていただくために各スタッフが様々な工夫をしています。シャンデリアなどの舞台小道具を使って照明を創り、お国柄のワインを選び、ホワイエには、まろさん所有の版画や自らこの企画のために海外で求めてくださった作曲家に纏わる絵画や銅像、出版物などを展示します。まろさんは忙中、郊外の倉庫に出向いて舞台の道具を一緒に選んでくださったり、ゲストの役者さんの舞台を観たり、この企画への関わりを大切にされています。
また、洋菓子のヨックモックさんから特別協力を得て、他にないパティシエ特製の高級ケーキを提供していただいています。甘いもの好きのまろさんとパティシエさんの感激のご対面も、懐かしいワンシーンです。

コンサートでは、まろさんがトークコーナーで曲の解説や隠れたエピソードをご披露する他、メンバー(特に新人)を紹介したり、サプライズ曲を演奏したり、その日のワインのおすすめまで、心尽くしの世界が広がります。最強のホスト役です。終演後の楽屋裏で汗が引かないまろさんが最初に口にするのは、やっぱり「お客さんは楽しんでくれたかな」。

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(c)王子ホール/撮影:藤本史昭

すべての人たちの音楽への愛情が集まっている「MAROワールド」。
この先の目標は、ホールからお帰りになるお客様の笑顔が絶えないように続けること。そして、いつの日か次の世代へバトンタッチすること。まろさんも、ホールも、お客様も、次の世代へ。これが私たちの夢であり、責務であると思っています。

さて、来年1月のシリーズ第27 回は、ヴィヴァルディとピアソラの“ふたつの四季”を、ゲストに石丸幹二氏を迎えて詩の朗読と共におおくりするニューイヤー・コンサート。名手揃いのMAROカンパニーの緩急自在の弦と言葉による疾風怒濤のバロックとタンゴで2016年の王子ホールは幕を開けます。ぜひ一度「MAROワールド」にお越しください。

星野桃子(王子ホール)

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公演情報:
2016年1月11日、12日
王子ホール ニューイヤー・スペシャルコンサート
MAROワールド Vol.27 “ふたつの四季” by 篠崎“まろ”史紀&MAROカンパニー
http://www.ojihall.jp/concert/lineup/2015/20160111-12.html

(c)王子ホール/撮影:藤本史昭

(c)王子ホール/撮影:藤本史昭