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Back Stage|2020年 宗次コンクール・イヤー|西野裕之

2020年 宗次コンクール・イヤー
Violin & String Quartet Competitions in Munetsugu Hall 2020

Text by 西野裕之(Hiroyuki Nishino)

2007年に開館した名古屋市の繁華街に位置する宗次ホールも、来春にはオープンから丸13年。当初は「カレー屋が道楽で」と言われることもあったが、ここ最近は年間約400公演をほぼすべて自主事業として開催。未だに「ソージホールさんですか?」というお電話も多いが、それも最初よりは減った。もっとも中のスタッフは日々「終わりの無い音楽祭」を行っているようなものだから、よく続いているなと言うのが率直なところだ。

さて、そんな流れ流れてゆく当館の日常の中にあって、ある種の節目となるイベントこそ、2つの大きなコンクールで、2020年はその両方が開催される年である。ひとつはオープン直後に初回が行われ、次で7回目を迎える「宗次エンジェルヴァイオリンコンクール」。宗次ホールの創設者で代表の宗次德二の楽器コレクションから、ストラディヴァリウスを始めとする名器が3年間貸与される副賞が最大の特色で、「国際コンクール」と銘打っているわけではないが、回を追うごとに海外からの参加が増加。第3回以降、日本人の優勝者は出ていない。これまで審査委員長にシュロモ・ミンツ氏を招いていたが、次回よりピエール・アモイヤル氏に交代することで、コンクールの方向性が変わってくるかもしれない。

聴衆にとっての楽しみは、本選が2管編成のオケとの協奏曲で競われること。300席少々の室内楽ホールではまさに大迫力。あっという間にチケットは売り切れる。しかし、ぜひともピアノとのデュオで40分ほどのプログラムを演奏する2次予選にもご注目いただきたい。なぜなら過去、このステージで落選した参加者に魅力的なヴァイリニストが多数いたからだ。ミュンヘン国際コンクールで第2位を受賞したイタリアのアンドレア・オビソ氏や、ロン=ティボー国際コンクールで第5位を受賞した弓新氏などもそう。本選だけではもったいない。このコンクールの会期は2020年3月17日(火)~23日(月)でストリーミングも計画中だ。(詳細は公式ウェブサイトにて順次発表予定。)

もう一つのコンクールは「宗次ホール弦楽四重奏コンクール」。こちらは2年に1度の開催で次回が4回目。その発端は、開館の年を皮切りに来日の折には必ず来演したチェコの名門 プラジャーク弦楽四重奏団の第1ヴァイオリン奏者、ヴァーツラフ・レメシュ氏が、ジストニアによって引退を余儀なくされた後、心筋梗塞で死の淵を彷徨いながらも、なんとか一命をとりとめたという知らせを受けたことだ。演奏家人生を絶たれた氏に、新たな生き甲斐として、日本の若者に30年以上にわたるキャリアに基づく「カルテットの秘伝」を渡してもらいたい。そのため、まずはマスタークラスつきのカルテット音楽祭を企画したところ、宗次代表から「これだけ優秀な若手カルテットが集まるなら、コンクールにしよう」という発言が飛び出し、現在の形になったのである。

そういった経緯から、コンクールにしては異例ながら、審査の前に審査員が直接参加団体をレッスンし、しかもその様子を一般に公開する。審査員兼講師には元東京クヮルテットの原田禎夫氏(チェロ)、愛知県立芸大で長く指導にあたり、室内楽経験も豊富な百武由紀氏(ヴィオラ)が加わった。この3名の指導が絶妙なバランスなのだ! テクニックと感情の結びつけ方を身振り手振り全体で伝えるレメシュ氏、含蓄ある言葉で若者たちの音楽観の根っこの部分から揺さぶりを掛ける原田氏、受講生一人ひとりが抱えている課題を見抜き、丁寧にアドバイスを加えていく姿勢を百武氏。その指導に立ち会う観客たちは「弦楽四重奏がどうやって出来上がっていくのか」を超えて「音楽とは?教育とは?」ということまで考えさせられ、一気にカルテットの魅力に惹きこまれる。事実、宗次ホールの弦楽四重奏の演奏会の来場者数の平均は、このコンクールを実施するようになって、着実に増加してきている。

この弦楽四重奏コンクール。一昨年の第4回から賞金が増額されたほか、あらたに審査員として、西野ゆか氏(クァルテット・エクセルシオ/ヴァイオリン)と齋藤千尋氏(ロータス・カルテット/チェロ)を迎えた。(この二人は指導には参加しない。)その前回大会、同率一位となったタレイア・クァルテット、そしてカルテット・アマービレの両団体は、賞金を軍資金に、海外のコンクールやオーディションに積極的に出ている。後者はこのほど見事ニューヨークの「ヤング・コンサート・アーティスト・オーディション」で第1位となった。「カルテットはお客が来ない」というのがこの業界の常識。カルテットで食っていくのは無茶なこと。学生時代にどれほど弦楽四重奏に打ち込んでも、留学や就職を経てバラバラになることがほとんどだ。それでも、彼らが敢えて挑戦するのは、ひとえにベートーヴェンを頂点に、数多の作曲家が素晴らしい弦楽四重奏曲を残してくれたから。そんな純粋な気持ちにホールだって応えたいではないか。

こちらの会期は2020年9月17日(木)~20日(日)で、最初の3日間は完全にレッスンだけ。審査は最終日に一気に行われる。まもなく募集が開始され5月に締め切り、事前の録画審査を経て、出場団体の決定発表は7月頃の見通し。

どちらのコンクールにも共通しているのは、「順位をつけるのが目的じゃない」どころかそこに大きな意味を置いていない、ということ。それは、観に来ていただければきっとすぐに理解していただけるだろう。そして結果発表の後、客席からホワイエに出れば、そこでは家庭的な雰囲気のレセプションが用意されていて、あのチェーン店のものとは一味違う、宗次代表手製のカレーライスが振る舞われるのである。

西野裕之(宗次ホール 副支配人)

 

(2019/12/15)

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<コンクール情報>
★2020年 第7回 宗次エンジェルヴァイオリンコンクール
https://www.munetsugu-avc.com
2020年3月16日(月)~3月23日(月)まで

★2020年 第5回 宗次ホール弦楽四重奏コンクール
2020年9月17日(木)~9月20日(日)まで
詳細は1月頃発表予定
(宗次ホール 公式ウェブ https://www.munetsuguhall.com にて)