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東京二期会オペラ劇場公演 ワーグナー:《タンホイザー》|藤堂清

東京二期会オペラ劇場 《二期会創立70周年記念公演》
   フランス国立ラン歌劇場との提携公演
リヒャルト・ワーグナー:《タンホイザー》(新制作)
   オペラ全3幕 日本語字幕付き原語(ドイツ語)上演
   (パリ版準拠(一部ドレスデン版を使用)にて上演)
Richard WAGNER:TANNHÄUSER
  Tokyo Nikikai Opera Theatre
  Presented by Tokyo Nikikai Opera Foundation

  An original production of Opéra national du Rhin
  (Opera in three acts, Sung in the original (German) language with Japanese supertitles)

2021年2月21日 東京文化会館
2021/2/21 Tokyo Bunka Kaikan
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)撮影:2月15日(ゲネプロ、別キャスト)

<スタッフ>        →foreign language
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
原演出:キース・ウォーナー
演出補:ドロテア・キルシュバウム
装置:ボリス・クドルチカ
衣裳:カスパー・グラーナー
照明:ジョン・ビショップ
映像:ミコワイ・モレンダ
合唱指揮:三澤洋史
演出助手:島田彌六
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:佐々木典子

<キャスト>
ヘルマン:長谷川 顯
タンホイザー:芹澤佳通
ヴォルフラム:清水勇磨
ヴァルター:高野二郎
ビーテロルフ:近藤 圭
ハインリヒ:高柳 圭
ラインマル:金子慧一
エリーザベト:竹多倫子
ヴェーヌス:池田香織
牧童:牧野元美
4人の小姓:横森由衣
    金治久美子
    実川裕紀
    長田惟子

合唱:二期会合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団

 

コロナ禍の中、初めて行われたワーグナーの公演。
予定されていた指揮者アクセル・コーバーは入国制限のため来日不能に、代わって、来日中であった読売日本交響楽団の常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレがタクトをとった。充実した響きとたっぷりとした音楽に彼の実力を強く感じる演奏。オーケストラとの直接の関係は2019年4月からの常任とそれほど時間は経っていないが、それ以前から定期演奏会や二期会の《ばらの騎士》でのつながりがあり、またバイロイトでの指揮などオペラの経験が豊富なヴァイグレ、彼が指揮にあたったことで今回の公演のレベルが高いものとなった。
オーケストラの楽器の一部をオーケストラピットの脇の舞台と同じ高さの通路におき、ピットの中が密にならないように工夫。ハープ、打楽器は下手側に、金管楽器は上手側に配置された。弦楽器の編成も通常ワーグナーを演奏する場合よりかなり小さい10型であったが、音量面で不満を感ずることはなく響きの透明感は増しており、美しいオーケストラの音を堪能。ハープが舞台と同じ高さに置かれたことで、ヴェーヌスベルクで歌うタンホイザーの竪琴の音がよりはっきりと聴こえる、第2幕での金管楽器も直接耳に飛び込んでくるなど、効果的。
オーケストラの中での感染予防という観点からの工夫だろうが想定以上の成果を生んだといえるだろう。ワーグナーのような大編成のオーケストラをコロナ禍でどう扱うかという点への一つの解となった1)

演出はキース・ウォーナーがフランス国立ラン歌劇場のために制作したもの。
舞台の中に舞台を設ける。内側の舞台は、ヴェーヌスベルクを表す娼館となり、歌合戦の舞台ともなる。その上で歌手が静止したとき、舞台全体が枠付きの絵画のような印象を与える。第3幕ではそこは荒野の中に置かれた処刑台といったおもむき。エリーザベトはそちらへ重い足取りで向かっていく。
最後の場面、タンホイザーは三角すい状のはしごを登っていき、天上から迎えるエリーザベトに手を伸ばす。手がふれあったかどうかわからないまま暗転。
新国立劇場で《ニーベルングの指輪》の演出を行った当時のウォーナーに感じた「こんな考え方があるのか」「こう展開するか」といった驚きにみちたおもちゃ箱をひっくり返したような舞台にくらべると、おとなしく整理された印象を受けた。
キース・ウォーナー本人が来日し、指導にあたったのだろうか?

歌手に関しては、女声は及第点、男声は問題ありというところだろう。
ヴェーヌスの池田はブリュンヒルデも歌う厚みのある声と低音域の安定を、エリーザベトの竹多はリリックな声を活かした音程のブレの少ない歌唱を聴かせた。牧童の牧野のピュアな声は今後が楽しみ。
一方、タンホイザーの芹澤だが、第1幕はベテラン池田のサポートもあり無難なスタートを切ったが、第2、第3幕と強い声を要求される場面が続くとスタミナ切れ。初めてのワーグナーのタイトルロールというから無理もないが、その挑戦意欲は買いたい2)。ヴォルフラムはタンホイザーと較べれば役としての重みは少ないが、第3幕に重要なアリアがあり、また第1,2幕でのアンサンブルでは中核となる。清水はアンサンブルの場面で、音程、音色ともに今一歩。他のヘルマン、ワルター等も正直なところバラツキが聴こえた。

オーケストラの人数をいかに抑えるかといった演奏者側の感染防止対策の一つのモデルとなっただろう。上演の質の点でも二期会のオペラ公演として十分な成果をあげたと考える3)

(2021/3/15)

註)

  1. 新国立劇場で3月に公演予定の《ワルキューレ》では、ピット内の間隔を確保するため「アルフォンス・アッバスによる管弦楽縮小版での演奏」と告知されている。
  2. 新国立劇場では、ジークムント役を海外から招聘できないとなったとき、第1幕と第2幕をそれぞれ別の歌手に歌わせるという方法を取らざるを得なかった。
  3. オペラを定期的に上演していく場合、かなり長期間(3~7年)の準備が必要であろう。劇場や団体で演目の選定、指揮者、演出家、その他のスタッフの決定などさまざまな要素がある。出演者の決定は、それらと較べれば上演日に近くなって行われる。新人の登用が可能になることもあるだろう。そうした場合、全体の練習開始以前の個人の勉強を団体として支援し、よりよい準備を可能とする体制をつくることを求めたい。演奏機会の少ない演目では特に必要だろう。

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<STAFF>
Conductor:Sebastian WEIGLE
Original Stage Director:Keith WARNER
Associate Stage Director :Dorothea KIRSCHBAUM
Set Designer:Boris KUDLIČKA
Costume Designer:Kaspar GLARNER
Lighting Designer:John BISHOP
Video Designer:Mikolaj MOLENDA

Chorus Master:Hirofumi MISAWA
Assistant Stage Director:Miroku SHIMADA

Stage Manager:Hiroshi KOIZUMI
Production Director:Noriko SASAKI

<CAST>
Hermann : Akira HASEGAWA
Tannhäuser : Yoshimichi SERIZAWA
Wolfram von Eschenbach : Yuma SHIMIZU
Walther von der Vogelweide : Jiro TAKANO
Biterolf : Kei KONDO
Heinrich der Schreiber : Kei TAKAYANAGI
Reinmar von Zweter : Keiichi KANEKO
Elisabeth : Michiko TAKEDA
Venus : Kaori IKEDA
Ein junger Hirt : Motomi MAKINO
Vier Edelknaben : Yui YOKOMORI
Kumiko KANAJI
Yuki JITSUKAWA
Yuiko OSADA

Chorus:Nikikai Chorus Group
Orchestra:Yomiuri Nippon Symphony Orchestra