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タンペレ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演|藤原聡   

タンペレ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演

2017年5月23日 東京文化会館 大ホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)(撮影:5/19公演)

<演奏>
ヴァイオリン:堀米ゆず子
指揮:サントゥ=マティアス・ロウヴァリ
タンペレ・フィルハーモニー管弦楽団

<曲目>
シベリウス:交響詩『エン・サガ』 op.9
同:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47
(ソリストのアンコール)
バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 BWV1005~ラルゴ
シベリウス:交響曲第5番 変ホ長調 op.82
(アンコール)
同:交響詩『フィンランディア』 op.26
同:『悲しきワルツ』

 

フィンランドのオーケストラではヘルシンキ・フィルやフィンランド放送響、そしてヴァンスカの元で国際的に知名度を上げたラハティ響が有名だが、タンペレ・フィルはそれらのオケに比べるとその認知度において一歩譲るところだろう。録音数はそれなりに多いのだが、指揮者陣が「スター性のない渋い実力派」であったりレーベルがマイナーであったりと理由は幾つかあるだろう。しかしその理由の最大のものがこのオケは今までに1度も来日していない、という点ではないか。そう、つまりは今回が初めての来日であり、指揮者は前任者ハンヌ・リントゥから2013年よりこのオケの音楽監督に就任したまだ31歳のロウヴァリである。熱心なマニア以外にはほぼ「初めて体験する」と言ってもよいオケ。さてその首尾は。

ステージにロウヴァリが登場。やや小柄でヒョコヒョコと歩き、そのモジャモジャ頭と相まってそれだけでかなり個性的な相貌であるが、これは演奏内容にもある程度当てはまるように思える。1曲目の『エン・サガ』からしてかなり動的であり、オケを盛大に煽る。この曲の一般的なイメージとしてある静謐さはほとんど感じられない。ある意味で荒っぽい演奏とも言えるが、これはこれで面白い。ちなみに聴く前にはオケの技量を若干懸念していたのだが、聴いてみると味わいがある。明らかにこのオケの強みは弦だ。その音は分厚くボリュームがあり、音色は素朴で独特の滋味。木管は普通だがホルンを初めとした金管群はなかなか上手く、特にホルンが強力。特段上手いオケとも言えないが、上手いから音楽が良いとも限らぬ。魅力的なオケである。

さて、『エン・サガ』ではロウヴァリは「そういう」指揮者なのかと訝ったけれども、それだけの指揮者ではないことは次のヴァイオリン協奏曲で明らかとなる。ここでは冒頭から非常に抑えた表情でオケを精密に制御し、堀米のソロの邪魔をせず、さりとてマスクもせず、絶妙のバランスでサポートするのには驚いた。ソロはさほどの表情の冴えは感じられず、音程もやや甘い箇所が散見されたものの、全体として見た場合にはロウヴァリの良さが効いているのだろうか、なかなかの佳演と聴いた。
堀米のアンコールはバッハ。当初は弾く予定はなかったのではなかろうか。その証拠に拍手が止まず、休憩にするためにホール側が一旦客席を明るくしかけた際に再度登場してコンマスと相談、それから弾き始めたから。

休憩後の交響曲第5番もまた面白い。テンポは相当に速く、強弱の対比も大きい。テンポで言えば終楽章が凄まじいが、これでは特に弦楽器群はさぞ大変だろうと心配してしまった。全曲を通じてロウヴァリはあまり溜めを用いずに一気呵成に演奏を進めて行った感。それでいて『エン・サガ』と違いここでは荒っぽさもない。独特のリズム感の良さも特筆されるが、個人的には少し流れと元気が良過ぎる印象。終結部のアコード6発はしっかりと決まっていた。

アンコールは2曲。『フィンランディア』ではアンダンテ・ソステヌートの序奏での金管群の音響バランスの妙、アレグロ主部の冒頭でのテンポの急激なギアチェンジ、意外にあっさりとした終結部などにロウヴァリの個性と良さを見る。そして何よりも例の「フィンランディア賛歌」の温かみある情感。本編では面白いと思いながらも全面的には賛同しかねたが、この『フィンランディア』には脱帽。『悲しきワルツ』では、冒頭部分のピチカートを少し演奏した後に演奏を止め、「皆さん、この曲は知っていますよね?」みたいなことを言っていた。ウィーン・フィルのニューイヤーコンサート的な演出に会場から和やかな笑い声が。この曲でも思い切ったテンポの対比と、何よりも個性的だったのが終結部のヴァイオリンによる3音をクレッシェンド・スービトで膨らませ、かつ断ち切るように終わらせた箇所である。これによって情緒的なものが切断されあっけない残酷さとでも言うべき物が前面に押し出されたように感じたのは筆者だけだろうか。

こういう個性的な指揮者ゆえその評価は分かれるところとは思う。しかし、ロウヴァリの端倪すべからざる才能は明らかゆえ、また近いうちにその実演を聴いてみたいものだ。かつて東響に客演したことはあるが、またどこかのオケで招聘して頂けないものでしょうか? 絶対にどこかが考えているに違いないが。