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特別企画|何を避け、何を活かすか|藤堂清

何を避け、何を活かすか

Text by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)

◆ベルリン・フィル・ヨーロッパ・コンサート

Berlin Philharmoniker (YouTubより)

ベルリン・フィルは創立記念日の5月1日にヨーロッパ各地でコンサートを行ってきている。コロナ禍の今年は予定を変更し、本拠地ベルリン・フィルハーモニーで室内オーケストラの規模で実施した。ドイツはロックダウンの最中にあり無観客であったが、インターネットにより世界中に配信された。
その一部はYouTube(Mahler : Symphony No.4 (ar.Stein)Barber: Adagio for Strings)で今も公開されており、演奏の様子を確認することができる。奏者と奏者の間を2メートル程度とり、互いに離れた位置、ソーシャル・ディスタンスを守って演奏している。
普通であればすぐとなりに座って弾いている人が2メートル離れた影響はどれほどのものだろう。他の演奏者の音を聴いて合わせるとすると数ミリ秒の差が存在する。音速に較べれば光の速度は速く、視覚のみであれば距離の差は気にならないはずであるが、実際は両方の感覚を使って合奏している可能性が高く、ミリ秒単位の違いは人数が多くなれば影響も大きくなるであろう。この日も、もし指揮者抜きであったら、分散した配置でのアンサンブルには困難もあったにちがいない。

◆ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

6月2日に収録したベートーヴェンの交響曲第7番の映像をYouTubeでみることができる。弦楽器奏者も各人が譜面台を置き、前後の間隔も広めである。管楽器も隣とは1.75メートルの間をとっている。指揮はグスターヴォ・ヒメノ。
オーケストラは5月の最終週から活動を再開した。
リハーサルではフロアの客席を撤去し、オーケストラを平土間の広い範囲に配置するといった試みも行われた。無観客でストリーミングを行うのであればこの方がリスクを少なくできるという判断だったようだが、6月2日の収録は通常の舞台上で行われている。
同じ日にドヴォルザークの交響曲第8番も演奏され、当初は公開されていたが、現時点ではアクセスできなくなっている。楽器の特性を考慮して、トロンボーンをかなり後の階段の上に配置していたのが記憶に残っている。
このような試行により、オーケストラが、“the Amsterdam-Amstelland Security Region COVID-19 Emergency Order”(5月8日発表)を守って活動ができることが確認されたという。

(Royal Concertgebow Orchestra, Youtubeより)

◆ウィーン・フィルハーモニー 管弦楽団

6月5日、本拠地楽友協会で3カ月ぶりのコンサートを行った。指揮者はダニエル・バレンボイム。NHKのニュースで取り上げられたのでご覧になった方も多いだろう。
他の楽団とは異なり、団員の間のソーシャル・ディスタンスは考慮されていないようだ。
聴衆の人数は100人に制限され、定員の20分の1であった(7月からは250人、8月からは500人、大規模であれば1000人まで可能となる)。
オーストリアのコロナ感染者は着実に減少してきており、ザルツブルク音楽祭の縮小開催に向けた最初の一歩となっただろう。

◆まとめ

オーケストラが聴衆を入れてコンサートを行う場合、演奏者側、オーケストラの団員やスタッフの感染防止と聴衆の間での感染防止の二面がある。ヨーロッパでの取り組みは、前者のみが取り上げられているが、オーケストラと劇場の役割が明確に分かれていることによるのだろう。
日本での取り組みは、クラシック音楽公演運営推進協議会(クラシック音楽公演運営推進協議会プレスリリース)という団体が中心となり進めている。構成員は音楽事業者、演奏家(オーケストラ)、ホールとクラシック音楽に関わる多くの団体が参画している。設立は5月20日で、「クラシック公演に特化した公演の再開に向けたガイドラインとロードマップを策定し、クラシック音楽公演を開催する関係者に普及していくことを目的とする他、ライブ配信の活用策や、新たなるコンサートスタイルの在り方についても協議」するとしている。
クラシック音楽公演における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン(クラシック音楽公演ガイドライン)」は、6月11日にクラシック音楽公演運営推進協議会によって策定された。このクラシック音楽公演に特化した業種ガイドラインは、5月4日の新型コロナウイルス感染症専門家会議による提言に基づくものだが、この時点では緊急事態宣言が出されており、イベント開催の自粛を要請することが知事の権限で可能であった。今はその法的根拠はなくなっており、実質的に感染拡大防止を業種ごとの自主的な活動とすることを求めるものとなっている。
ガイドラインの「はじめに」に、「クラシック音楽公演に関わる音楽家、実演家、楽団、劇場、事業者ら多くの関係者によるイベント自粛が、感染拡大防止に大きく貢献した事は言うまでもありません。」と書いているが、それをどのように確認したのか、できたのかについては言及がない。
公演の形態、規模によりさまざまな状況があるとしながら、「公演主催者が活動を再開するかどうかの判断にあたっては、(中略)、クラシック音楽公演において感染者の発生やクラスター等が生じないよう万全な取り組みを行っていくことを求めます。」とし、いわば、ゼロリスクとなるように求めるものとなっている。
政府が「自粛を要請」し、それによっておこる経済的、社会的被害については、「自粛」だからという理由でなんら補償を行わない。団体として自律的に感染拡大防止を目指すことは重要だが、リスクの範囲とそれに対応するための作業やコスト負担を限定しておくことも大切だろう。

(2020/6/15)