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サクソフォン×邦楽器×現代音楽プロジェクト #3 サクソフォン×笙|西村紗知

サクソフォン×邦楽器×現代音楽プロジェクト #3 サクソフォン×笙
Saxophone×Traditional Japanese musical instruments×Contemporary music Project
#3 Saxophone×Shō

2021年3月19日 ムジカーザ
2021/3/19 MUSICASA
Reviewed by 西村紗知(Sachi Nishimura)
写真提供:大石将紀

<演奏>        →foreign language
大石将紀(サクソフォン)
宮田まゆみ(笙)

<プログラム>
クロード・ドビュッシー:シランクス(1913)[サクソフォン]
サルヴァトーレ・シャリーノ:歓喜の歌(1985)[サクソフォン]
雅楽古典:雙調調子[笙]
―トーク 笙の過去と現在―
武満徹:ディスタンス(1972/90)[サクソフォン・笙]
フランシスコ・アルヴァラド:shax(委嘱作品 世界初演 / 2021)[サクソフォン・笙]
細川俊夫:笙とサクソフォーンのための「明暗」(委嘱作品 世界初演 / 2020/21)[サクソフォン・笙]

 

サックスと笙という珍しい組み合わせの演奏会。サックスソロ曲が2つ、笙のソロ曲は1つ、あとはトークを挟んで後半にデュオ曲が3つと続く。同じリード楽器とはいえ、起源、歩んできた歴史とその長さに関しては接点のなさそうな両者とあり、彼らのための作品などそうそう存在するはずもなく、プログラム最後の2つの作品だけが、本当にこの2つの楽器のための作品ということになる。

「シランクス」と「歓喜の歌」は元々フルート曲で、今回はソプラノサックスで演奏された。「シランクス」は、サックスの強くて芯のある均質な音色の性質もあって、あんまり夢見心地に浮遊する感じにはならない。
「歓喜の歌」の方はキーを押さえるときに発するカチャカチャした音と、楽器に吹き込む息の音とがせわしなく反復している間に、ときたま高音のロングトーンが乗せられて、非常に技巧的な作品である。
どちらも、音が鳴るとそのまま旋律の線としてはっきり際立ってしまうので、ぼやけたり、擦れたり、そういうニュアンスがあまり自由に出せないようであって、もどかしい。

笙のソロ作品は「雙調調子」。雅楽の音名のことはわからないのだが、Cis-Gisの五度のドローンが鳴っているなか、そこに他の音が加わって狭い音程の和音がつくられていき、また別の完全五度のドローンに移り、また堆積したり狭い音程でぶつかるように鳴ったり……というのを繰り返す。発展もなしにぼんやりと時間が過ぎていくさまは、現代音楽作品でもしばしばみられるものなので、古い作品とは到底思えなかった。

武満徹「ディスタンス」。元々はオーボエと笙の作品。笙は客席後方にあるバルコニーのようなスペースで演奏した。
笙の調子に合わせてだろうか、この作品の中心となる音はHのようで、この音の付近でサックスはときにフラッターやハーモニクス、声を交え、即興的に鳴らしていく。笙の音は上から降ってくるかのような伴奏だ。これは、現代音楽における、トーン・クラスターの実験の成果を背負わされている感じがする音響であった。
サックスは特殊奏法を通じて、自身の音色にまとわりつく合理性をはぎ取ることで、笙の側に近づこうとしている。笙の方でも、なるべく均質に鳴らすことで、サックスにこたえようとしている。そんな両者のなかなか距離の近づかない関係を聞きながら想っていた。
しかし、音というのが概念ごと違うのだろうか。どうして同じ音名に聞こえるものでも、サックスと笙ではこんなにも合わさらないのか、不思議でならなかった。

フランシスコ・アルヴァラドの「shax」でもまた、笙は笙として扱われているという感じがあまりせず、ここではどこかオルガンのような扱いだった。
最初、サックスと笙がユニゾンでポップなビートを刻み、変拍子になったりしながらデュナーミクも合わせている。別の場面では、笙のドローンが先行し、のちにアルトサックスが入ってきて共にクレッシェンドし、これを繰り返す。サックスが割れた音を添えることもあれば、笙が歌いながら吹くところもあった。
最後の方は特に、コード進行もしっかりあってテクノかゲーム音楽のようなきびきびしたサウンドで、新鮮ではあったように思う。

プログラム最後は細川俊夫の、笙とサクソフォーンのための「明暗」。対等な応答によって音楽がつくられている。冒頭から、両者が互い違いに、か細い断片で応答し合う。しずかな応答は、やがて音型、音色を変えつつ、関係をも変えてダイナミックに変貌していく。本当に互いがその楽器自体として関わり合うには、つまり何かしらの代替措置としての存在意義を乗り越えまさに他のどの楽器にもできないことをするためには、きめ細やかなアンサンブルの力が必要だ。そういう必然性の強さを感じたのはこの日のうちではこの作品だけだった。

細川俊夫作品の独り勝ちという印象だ。それは、それぞれの楽器の特性を汲み取り、アンサンブルとしてどういう音楽が可能かというのを、説得力あるかたちで提示できたからに他ならない。サクソフォンと笙のように、世の中まだ出会っていない楽器がたくさんある。これから出会う楽器のため、現代音楽にはまだ仕事が残されているということだろう。

(2021/4/15)


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<Artists>
Masanori Oishi(Saxophone)
Mayumi Miyata(Shō)

<Program>
Claude Debussy: Syrinx
Salvatore Sciarrino: Canzona di ringraziamento
Soujou no chousi
Talk: M.Oishi & M.Mayumi
Toru Takemitsu: Distance
Francisco Alvarado: shax for sho and Saxophone(Commissioned by M.Oishi / World premiere)
Toshio Hosokawa: “Mei-an”for sho and Saxophone -Light and Darkness-(Commissioned by M.Oishi / World premiere)