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ディオティマ弦楽四重奏団 バルトーク弦楽四重奏曲全曲演奏会|藤原聡

ディオティマ弦楽四重奏団 バルトーク弦楽四重奏曲全曲演奏会

2018年6月12日 横浜みなとみらいホール 小ホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 藤本史昭/写真提供:横浜みなとみらいホール

<演奏>
ディオティマ弦楽四重奏団

<曲目>
バルトーク弦楽四重奏曲第1番〜第6番

 

バルトークの弦楽四重奏曲全6曲を一晩のうちに完奏するコンサートというものは、かつてなかったという訳でもなかろうが、しかし寡聞にして筆者は知らない。技術的な難易度とその精神的内容の重さからこれを全てまとめて高いレヴェルで弾き切るということがいかに難事業であるかは聴き手からも容易に想像が付くが、ディオティマSQはそれを今回敢行した(18:30開演、2回の休憩を挟んで22:15終演)。尚、彼らは2017年4月にもパリのブッフ・デュ・ノール劇場において全6曲を一夜の内に完奏するコンサートを開催しており、これは映像収録もされていてCLASSICA JAPANで観ることが出来る。

さてその演奏だが、前6曲共極めて高い水準の演奏で感嘆しきりである。ムラが全くない。現代作品を得意とするディオティマSQだが、それだけに実に正確だ(未だにこれを「正確に」演奏するだけでも至難の業であろう。何せかのアルバン・ベルクSQですらそのバルトーク録音で「正確ではない」箇所が散見されるほど)。音価の取り方やリズムの明快さ、ほぼ完全と言いうるアンサンブルの妙。曖昧に処理される箇所は皆無であり、全ての表現と表情が練り上げられていて演奏者の体内に入っているという趣。なるほど、この演奏はあまりにも現代的であって古の演奏の持つような含みやバルトーク的な有機性にいささか欠けるのではないか? との意見はありうるだろう(例えばバルトークの典型的な「夜の音楽」たる第4番の第3楽章や第5番の第2楽章など)。あるいはよりロマンティックに演奏することも出来るであろう初期の第1番や第2番でもそのような方向へは行かず、極めてビターテイスト。だが、このディオティマSQのような演奏でこそこれらの楽曲の持つ革新的な音構造が明快に表出されるのではないか。事実、この曲の演奏で4声部がここまでそれぞれの主張を明確に押し出して全体として立体的な音響体を構築している演奏を聴いた記憶がない。こういう演奏スタイルはジュリアードSQをもってその嚆矢とするのだろうが、そして今やこのようなスタイルは一般的になってもいるだろうが、それでもディオティマSQの演奏は頭一つ図抜けている感がある。何と言うべきか、「突き抜けて」いるのだ。

個々の楽曲について詳述はしないが、中でも第4のかつて耳にしたことのないような非常なアグレッシヴさ(第2、第4楽章の快速テンポによる唖然とするような鮮やかさ、終楽章はほとんどロックである)と第5番の同じく第2、第4楽章における音色と表情の微細な変化が殊に印象に残った次第。この曲を特長付ける対位法的な音構造への配慮も非常に優れている。細かい話だが、第6番の第3楽章「メスト-ブルレッタ」の主部が始まってすぐに登場するVnによるシニカルな4分音の箇所をこれだけ素晴らしく弾いてのけている演奏は他にない。

ディオティマSQは2年前の2016年にも来日したが、その際のブーレーズやシェーンベルクにも強い印象を与えられた。と同時にベートーヴェンにも卓越した解釈を聴かせ、彼らは決して「現代(近代)音楽専科」の団体ではないと思ったのだった。次回来日はいつのことか。その際には是非駆け付けられたい。

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 (2018/7/15)