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Point de Vue Vo.11~出雲市立第一中学校合唱部を迎えて~|齋藤俊夫

Point de Vue Vo.11~出雲市立第一中学校合唱部を迎えて~

2017年3月30日 浜離宮朝日ホール
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 山口敦/写真提供:Point de Vue

<曲目・演奏>
柏木恒希:『Five fragments~オーボエ、チェロ、テノール、パーカッションのための~』(委嘱初演):オーボエ:川村美樹、チェロ:中西哲人、テノール:金沢青児、打楽器:山中佑美

高濱絵理子:『Improvisations II~クラリネット、チェロ、ピアノのための~』(委嘱初演):クラリネット:福島広之、チェロ:山澤 慧、ピアノ:高濱絵理子

土田豊貴:『リファレンスポイント~笙、クラリネット、チェロ、マリンバのための~』(委嘱初演):笙:三浦礼美、クラリネット:中村匡寿、チェロ:朝吹元、マリンバ:茂木美彩希

鈴木輝昭:『《とおく》~同声合唱とピアノのための』(詩:谷川俊太郎)(2015年出雲市立第一中学校合唱部委嘱作品/東京初演):指揮:浜崎香子、ピアノ:鈴木あずさ、合唱:出雲市立第一中学校合唱部

森山智宏:『ナイトパッセージIII』(委嘱初演):ヴァイオリン:山縣郁音、ヴィオラ:山本周、チェロ:松本亜優

土田英介:『クラリネット、ヴァイオリン、ピアノのためのトリオ』(委嘱初演):クラリネット:三界秀美:チェロ:對馬佳祐、ピアノ:泊真美子

(招待作品)鈴木輝昭:『《遠野幻燈》~二群の童声合唱とパーカッションのための詩曲~』(構成/詞:大橋容一郎)(2002年):指揮:浜崎香子、打楽器:齋藤綾乃、合唱:出雲市立第一中学校合唱部

 

Point de Vue(ポワン・ドゥ・ヴュ)は2007年に定期演奏会を開始した現代音楽団体である。今回は出雲市立第一中学校合唱部(女声合唱)が招待され、Point de Vueメンバーである鈴木輝昭が過去に手掛けた合唱曲を2曲演奏した。

まず柏木作品。全体を通して昆虫のように各パートが跳ね回り、前面に出るパートと背景に下がるパートが忙しく出入りを繰り返す。どのパートも一歩も譲らずに動き回ることによってシュールレアリスティックな歌詞が音楽的に再現される。特に音楽的に豊かに聴こえたのは一瞬のゲネラルパウゼの後、テノールが「di」の音を長くメリスマで歌い、そこから始められたテノールソロの箇所である。他にも聴きどころの多い贅沢な音楽体験ができた。

高濱作品は大変に厳しい音楽であった。一音たりとも気が抜けない。第2楽章のピアノのカデンツァやピアノがリードする第3楽章では音の数も少なくないのに緊張感に満ちている。ブツリと切れる終曲まで集中力が必要とされる見事な音楽であった。

笙、クラリネット、チェロ、マリンバという異色の4声による土田作品は4人が近づいたり離れたり、対立したり合わせ合ったりとアンサンブルの妙味が味わえた。4人の距離がある時はゼロ、ある時は無限遠、ある時はその中間の距離といったように、それぞれ異なった距離感の楽想が一つの作品として構築されているのに目を見張った。最後は皆遠くに去って行くようにして終わる。

そして前半最後の鈴木作品『とおく』は出雲市立第一中学校の委嘱によるもの(2014~2015作曲)であるが、冒頭の「がっこうがもえている」の1センテンスだけでもう何もかも奪われた気分になった。まさに「もえている」のである。こんなに激しい音楽が舞台上にいるまだ可愛らしい女子中学生たちに可能なのか?と驚きあきれ、そして感嘆した。第1曲「がっこう」、第2曲「ぴあの」、第3曲「てんこうせい」、第4曲「とおく」の谷川俊太郎の歌詞は確かに子供の視点から見た世界の詩なのだが、しかしそれにしてもあまりにも激しい。難解な和声とポリフォニーによって構築されたこの鈴木の合唱曲がこのように歌われることがありえるのかと、筆者は自分が今見ている中学生達と聴いている音楽に驚き、美しい倍音が会場を渦巻く中、呆然となってしまった。

後半の森山作品は内攻的で苦痛すら感じさせる音の「きしみ」を耳にすることで、身が縛られたような感覚に陥り、その「きしみ」をひとかけらも聴き逃すことが許されないという、ある意味でつらくなるような音楽であった。そして苦痛とともに、どこか虚ろな、厭世的とでも言えるような音が其処此処から聴こえてきたこの作品、作家、演奏者全てが只者ではない。

委嘱初演作品の最後の土田作品は冒頭のピアノのテーマを自由に展開・変奏していく作品だが、しかし半ば「やけっぱち」のような攻撃性をもって3人が暴れまわり、息をつく暇もない。饒舌で荒々しい、だが美しい音楽。最後の謎めいたコーダまで楽しめた。

そして最後の出雲市立第一中学校合唱部による鈴木作品『遠野幻燈』はウォーターゴング、鈴、銅鑼、ギロ、錫杖の先などを持った合唱部員が2群に分かれ、中央に打楽器の齋藤綾乃が配置された。第1楽章「夕野辺」のスピード感あふれる明るい合唱でまた心洗われるような心地がしたが、歌詞が古い岩手弁で書かれており、何を言っているのかわからないのと同時に曰く言い難い力で迫ってくるのである。第2楽章「囲炉裏端幻燈」では2群に分かれた合唱によって複雑極まりない、そして土俗的とも言えるポリフォニーが歌われる。第3楽章「ふしぎ」では第2楽章とは打って変わって透明だが、途中1人1人が一斉にミクロポリフォニー的に歌詞(のはずだが)を歌う、あるいは朗読することによってホワイトノイズのような音響が会場を満たす。そしてまた打楽器と共に歌声が風のように会場を吹いて去っていく。素晴らしい。
実演に接するまで出雲市立第一中学校合唱部を「たかが中学生」とあなどっていた感が筆者にもあったことは否めない。だが、合唱を聴いて心改めさせられた。彼女らは皆立派な音楽家であり芸術家である。

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編集部註)
本誌、「五線紙のパンセ」鈴木輝昭執筆もご参照ください。
五線紙のパンセ|その1)活動の現場で|鈴木輝昭
五線紙のパンセ|その2)活動の現場で|鈴木輝昭
五線紙のパンセ|その3)活動の現場で|鈴木輝昭