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Pick Up (2021/3/15)|みわぞう sings 三文オペラ|大田美佐子

みわぞう sings 三文オペラ
Miwazou sings Die Dreigroschenoper

2021年2月26日 神戸 Live Hall クラブ月世界
Reported by 大田美佐子 (Misako Ohta)
Photos by 内池秀人

こぐれみわぞう(vo, per)
大岡淳(katari, vo)
大熊ワタル(cl)
関島種彦(vl,mand)
近藤達郎(pf)
木村仁哉(tuba)

トークゲスト
細川周平 (国際日本文化研究センター名誉教授)
大田美佐子(神戸大学大学院准教授, クルト・ヴァイル研究)

 

数多の劇作家のなかで、本国ドイツでは、現在でもシェイクスピアに次いでもっとも上演される回数が多いのがベルトルト・ブレヒト(1898-1956)である。その理由は様々にあるが、現代社会の暗部を照射し、聴衆に刃をつきつけつつ、舞台と観客の境界線を揺るがせるそのしかけが、劇場の機能と存在意義とを問いかけていることは大きいだろう。i

そのなかでも《三文オペラ》は群を抜いて知名度が高い。音楽と言葉の丁々発止の関係性から生まれる独特の異化効果に共感した古今東西の演出家、アーティストたちが、舞台で挑んできた。日本でもメモリアルイヤーを中心に様々なプロダクションが立ち上がったが、このコロナ禍にあっても、オンライン演劇で、大学演劇のオンライン配信で、と三文オペラの勢いは止まる所を知らない。グランドオペラとは異なる、クロスオーバーな三文オペラの可変性は、コロナ禍の時代にも生命力を発揮している。

今回のみわぞう sings 三文オペラの見どころは、様々にあるが、まず、原作の言葉と音楽の重要な部分を損なわずに構成されたうえで、稀有なオリジナリティーを発揮していることだ。千田是也、岩淵達治、酒寄進、谷川道子という独文学者を中心とした三文オペラ翻訳の重厚な系譜の蓄積のうえで、演出家、劇作家である大岡淳の新訳は、リズミカルかつドイツ語の響きと音楽との掛け合いを意識し、身体的に言語のダブルミーニングが腑に落ちるしかけに満ちている。その大岡が新たに上演台本を書き下ろし、語り、歌、紙芝居を担当して芸達者ぶりを思う存分披露する。歌姫みわぞうはパーカッショニストが出自だが、ポリー、ジェニー、ピーチャム夫人のみならず、メッキース、ピーチャムまでの個性豊かなキャラクターを七変化で歌ってしまう。そして、小編成ながら、劇的効果が巧みな三文オペラサウンドを実現した音楽家たち。クラリネット、打楽器からおもちゃまで雑多な鳴り物でリードする大熊ワタル、ピアノ・キーボードの近藤達郎、チューバの木村仁哉、ヴァイオリンとマンドリンの関島種彦らの演劇的感性が光る。彼らのサウンドは、ヴァイルがブレヒトの詩に対峙して生み出した音の「思考」を損なわずに受け継いだものだ。

バロックと現代音楽が交差する序曲は、チンドン太鼓で三文オペラの世界を日本のストリートに導き入れる。この物語のいわば地獄の釜が開くという意味で、オペラたる所以の「序曲」は特に鮮烈だ。

今回、神戸公演は1969年開場の老舗グランドキャバレー月世界(現在はライブ会場として運営)で開催された。音楽劇とカヴァレットの境界線を行き来する「みわぞう sings 三文オペラ」にとって、月世界はまさに三文オペラが生まれた1920年代のワイマールキャバレーを彷彿とさせるうってつけの舞台であった。iiこのハプニング感満載の《三文オペラ》は、予定調和に麻痺した再生芸術が失いつつある「ハプニング」の新鮮さを感じさせるだろう。

  1. 2021年にはオンライン上でデジタルブレヒトフェスティバルが開催された。https://www.nytimes.com/2021/03/04/theater/augsburg-brecht-festival-digital.html?referringSource=articleShare&fbclid=IwAR0sVD_WBT2XRx_1abG4QRIdMUqE3QKdTdqgOF40oUzmiSpkOvetIFgocGs
  2. 神戸の公演ではアフタートークが設けられ、細川周平(国際日本文化研究センター名誉教授)と筆者も参加し、ワイマール文化、冷戦と三文オペラ受容、洋楽史、ポピュラー音楽、異化効果、翻訳など、三文オペラをめぐる様々なトピックが語られた。

特設サイト
http://www.cicala-mvta.com/dreigroschenoper2021.shtml

ライブ動画のアーカイブ視聴は3/21(日)23:55まで。
https://peatix.com/event/1829693/view

(2021/3/15)