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Pick Up (20/12/15)|一柳慧芸術総監督就任20周年記念 Toshi伝説/記者懇談会|丘山万里子

一柳慧芸術総監督就任20周年記念 Toshi伝説/記者懇談会
(オンライン)

Text by 丘山万里子(Mariko Okayama)
写真提供:神奈川県立音楽堂

2020年12月9日@神奈川県立音楽堂
登壇者:一柳慧、鈴木優人、成田達輝、本條秀慈郎
※コメント動画有り:ブルーオーロラ サクソフォン・カルテット、河合拓始 pf

神奈川芸術文化財団の芸術総監督就任20周年記念企画のタイトルは『Toshi 伝説』。
「Toshi」とは無論、一柳に由来するが、同時に本年パンデミックに覆われた社会(とりわけ都市)の閉塞状況にあって、常にラディカルであり続ける一柳を囲む人々による新たな「伝説」の創造宣言とも受け取れるなかなかに挑戦的なネーミングである。
加えて、ポスターが何やら誰かのカリカチュアに似た面白イラストでこちらも攻めているではないか。はて、卓球?(は会見で判明)
ざっと企画内容に触れておく。
公演は2021年2月「共鳴空間(レゾナント スペース)で管弦楽撰集。鈴木優人新作ファファンファーレで開幕、一柳3作が並ぶ。
3月「エクストリームLOVE」は室内楽のマラソンコンサートでベートーヴェン、フランク、武満徹、高橋悠治、一柳慧作品による3部構成。
その『 Toshi 伝説』の記者懇談会がオンラインで実施された。

筆者、それなりに出かける小さな現代音楽コンサートによく見かける巨匠二人は松平頼暁(1931)と一柳慧(1933)。若いもんの仕事ぶりをチェックしなきゃ、と興味深々の様子に都度、敬服するのだ。失わない好奇心こそ創造の「種」、とその背に書いてある。

会見場に並ぶ4名は鈴木優人(1981)、本條秀慈郎(1984)、成田達輝(1992)、そして一柳。
以下、発言要旨。

鈴木:存命の作曲家のしかも再演というのがとても新鮮。過去にも一柳作品には接しているけれども、常に若々しく自由な氏であるし、また自由に演奏していい、とおっしゃる。
今回の『交響曲第8番「リヴェレーション2011」』も自由に演奏したい。ファンファーレ新作も作曲依頼され、とても光栄に思う。
(質問タイムの質問:古楽と現代の楽譜にどう向き合うか、に対し、それぞれ音の「定〜不定」の狭間を読む楽しみがある、との答え)。

本条:一柳先生は三味線という楽器の特性を熟知した方。今回は水の流れをテーマに、小さな流れから大河に至るまでをイメージして選んだ。師匠である高田新司 (本條秀太郎)『魚の涙』、一柳慧『密度』、高橋悠治『花筺~水』といった作品を演奏する。

成田:『循環する風景』が書かれた頃、まだ両親は結婚しておらず、私も存在しなかった。自分の生まれた国の作曲家の作品の演奏をライフワークにと考えている。全ての音楽の歴史を一直線上に並べて考え、刺さる演奏がしたい。自分が培ってきたものを心を込めて出せるように作品に向き合いたい。

一柳:自分が若い頃は、話をしているとお互いにどんどんズレたり、熱くなったりしたものだが、彼らはおしゃべりが上手くてクール。現在の私たちの精神状態を示しているようだ。静かで客観的。音楽を実によく聴いている。こういうところから、新しい演奏、考え方が出てくるのではないか。

一番若い成田とはほぼ60年の開きだが、昨今、若手奏者が日本の作品に敬意を持ち、意欲的に取り組む傾向があるのは非常に喜ばしいことだ。
一柳といえばケージだが、そのケージの授業で「沈黙の記譜法を考えよ」という課題に、彼は真っ白の紙をそのまま提出したという。昨今、コロナの最中なぜかケージの『4分33秒』に接する機会が多かったが、若い世代にとっての「現代音楽がスリリングに輝いた時代」をアクチュアルに呼吸し、今なお創作に挑む一柳との協業は一つの歴史の検証作業ともなるのではないか。
彼らには西だ東だ、の境界などなく、それこそ同一線上に音楽を捉える新鮮な視点と柔軟さがある。一柳が期待するのもそこだろう。

さて、一柳の話の中で最も印象深かったエピソード。
以前「卓球」がテーマの音楽を依頼された時、台にピンポン球が落下したところで様々な音が発生する仕掛け(台の裏面に音源を埋め込む)を考案、聴衆が面白がって次々にトライ、飽きることなく遊んでいた、という話。
調べたら以下の情報。楽しそう。
浅葉克己×一柳慧(作曲家・ピアニスト)スペシャル・イベントコンサート
2009年7月20日 @神奈川県民ホールギャラリー
「エレクトロニクス卓球台(制作協力:有馬寿純)=3人組み団体戦」
これに絡んで、成田に「自分でコントロールできないものに向き合った時どうするか」の質問。「球を自分自身だと、考えるなら・・・予測不可能の面白さ、卓球の球は人生」。

「楽しむ現代音楽」「シリアスの中に楽しさを」。
とのまとめに、手から手へ渡されてゆく新たな伝説の始まりを予感したことだった。
日本の「財」はこういう人々だ。
海外からスターを呼ぶ「財」があるなら、つぎ込むべきはこういう未来へ、だろう。

最後に一柳が帰国した1961 年秋、草月会館ホールでの作品発表会パンフに書かれた彼の言葉を紹介しておく。ちなみにこの時、3月室内楽公演第3部で河合が演奏予定の『ピアノ音楽第1~第7』中第2,第7が一柳により演奏されている。

「音楽とは出来事だ 音楽とは行為だ
作曲とは規定することではなく
可能性を提供することにある
思惟も言葉もいらない 音による体験
紙の上の知的な遊戯は終わった
瞬間の燃焼にもとづく必然的な変貌
常に現実に捉われよう
そこに未知の世界への可能性がある
自分を投げだせ」

      (『日本の作曲家たち 上』秋山邦晴著/音楽之友社より)

公演詳細は以下。

一柳慧芸術総監督就任20周年記念 Toshi伝説
2021年2月13日 「共鳴空間(レゾナント スペース)」@神奈川県民ホール
2021年3月20日 「エクストリームLOVE」@神奈川県立音楽堂
★若い学生にも是非楽しんで欲しいと一柳シート(招待)が提供される。
要事前申込:https://www.artspress.jp/posts/11348084/

(2020/12/15)