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NISSAY OPERA 2019 《ヘンゼルとグレーテル》|藤堂清   

NISSAY OPERA 2019
エンゲルベルト・フンパーディンク:《ヘンゼルとグレーテル
Engelbert Humperdinck : Hänsel und Gretel
全3幕(日本語訳詞上演・日本語字幕付)

2019年6月15日 日生劇場
2019/6/15 Nissay Theatre
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi) 

<スタッフ>     → foreign language
指揮:角田 鋼亮
演出・振付:広崎 うらん
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団 
合 唱:C.ヴィレッジシンガーズ 
児童合唱:パピーコーラスクラブ
     えびな少年少女合唱団
日本語訳詞:田中 信昭
美 術:二村 周作
照 明:中川 隆一
衣 裳:十川 ヒロコ
ヘアメイク:田中 エミ
音 響:佐藤 日出夫
舞台監督:幸泉 浩司
演出助手:手塚 優子
児童合唱指揮:籾山 真紀子
副指揮:高井 優希、鈴木 恵里奈、石﨑 真弥奈
コレペティトゥア:平塚 洋子、星 和代、湯浅 加奈子 

<キャスト>
ヘンゼル:郷家 暁子
グレーテル:小林 沙羅
ペーター(父):池田 真己
ゲルトルート(母):藤井 麻美
魔女:角田 和弘
眠りの精・露の精:宮地 江奈
ダンサー:久保田 舞   熊谷 崇   佐伯 理沙   人徳 真央   鈴木 明倫   鈴木 奈菜
     出口 稚子 長澤 仙明   花島 令   古澤 美樹   松本 ユキ子   宮原 由紀夫
     屋代 澪  Ree 

 

舞台後方中央にみどりの葉をつけた若木が伸びてくる。それまでボロを身にまとっていた人々がそれを脱ぎ捨てその周りをおどる。ヘンゼル、グレーテル、父、母、そして魔法のとけた子供たちが前方で歌い大団円。
音楽が終わっても、森がよみがえったのを喜ぶ鳥のさえずりが続く。長い時間、会場がその静かな明るさにつつまれた後、ようやく拍手が始まった。 

フンパーディンクの《ヘンゼルとグレーテル》、グリム童話をもとに作られたもの。クリスマス・シーズンに子連れの観客を対象として上演されることが多い。聴衆に占める子どもの割合が高いこともあり訳語で歌われる場合も少なくない。ニューヨークのメトロポリタン・オペラでも1970年代以降は英語による公演が続いている。
NISSAY_OPERA_2019としての一般公演は2回、この日はそれに当たる。ほかにニッセイ名作シリーズ2019として東京で7公演あり、多くの中・高校生が招待された。10月には名古屋と宮城で2公演ずつ同じキャストで予定されている。オーケストラ、合唱は地元の団体に変わる。
このプロダクションは2013年と2015年に上演されており、今回は4年ぶりの再演。回を重ねていることもあってか、日本語の歌詞も聴きやすい。児童合唱として舞台に立っている子の関係もあるのだろうか、NISSAY_OPERAのシリーズとしても小学生と思われる子どもが多い。劇場の席に座ると舞台が見にくくなるような小さな子には、10cm位の厚さのクッションが提供されていた。 

作曲者のフンパーディンクがワーグナーに私淑していたこともあり、オーケストラの厚い響きにその影響が感じられる。一方、ヘンゼルとグレーテル二人の場面での楽しい曲調のおどりは、口ずさむのにもってこい。
指揮の角田は、序曲冒頭の深々とした響きで聴衆を惹きつける。楽しげな軽快な部分、そしてグロテスクな「魔女の騎行」へと的確な変化。
序曲の後、ヘンゼルとグレーテルの兄妹が空腹で仕事にも飽き、おどりだす。演出・振付の広崎が舞踏家ということもあり、二人にかなりの動きを要求。郷家、小林ともにそれによく応えていた。歌の点でも二人の声はよくとけあい、美しく響く。
母に叱られ、二人で森に行き帰れなくなり、そこで一晩寝る。翌朝、お菓子の家を見つけるが、それは子供を誘う魔女の家で、二人はつかまり食べられそうになるが、機転をきかせて魔女を退治、魔法をかけられていた子供たちを救い出す。探しにきた父母に会って、みなで喜びあう。細部に違いはあるがよく知られたストーリー。
夜の森の二人の眼に眠りの精が砂をかけ眠らせる。二人は14人の天使の夢をみる。この第2幕の幕切れの場面で、広崎は舞台上に天使を登場させ、彼らの夢を舞台の上に視覚化した。この白い天使たちのおどりが長い後奏のあいだつづき、照明の効果もあり美しい場面となった。
第3幕にあらわれるお菓子の家はよく絵に描かれているようなもの。魔女はテノールの角田和弘、リフトに乗り上がったり下がったり、様々な声色を使い分けるベテランの味。家のまわりは、死んだ木々、ボロをまとった人々で囲まれている。「お菓子の家」の胡散臭さを示しているかのよう。
二人によって魔女の魔法がとかれるいうところで冒頭の場面につながる。人間の営みで死んだ森がよみがえっていく。
もともとの台本には書かれていないストーリーを展開し、舞台上で見えるようにするのが演出の仕事、広崎はそれによく応える舞台を作り出した。 

音楽面でも、指揮の角田が歌手をサポートしつつ、骨格のしっかりした音を引きだした。新日本フィルも彼によく付いて行っていた。ヘンゼルとグレーテル以外の歌手もしっかりした歌を聴かせた。父の池田は東京デビューというが、今後が期待される。母の藤井の厚みのある声も楽しみ。 

もともとの「ヘンゼルとグレーテル」の話は、飢きんで食糧がなくなり、自分たちが生きるために子どもを犠牲にするというもの。原因は天候不良もあれば戦乱によることもあっただろう。それを考えると最後の静謐な場面、ただ美しいとはいえないものがあるように感じられた。

(2019/7/15)

 

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<STAFF>
Conductor:Kosuke Tsunoda
Stage Director/Choreographer:Uran Hirosaki
Set Designer:Syusaku Futamura
Costume Designer:Hiroko Sogawa
Lighting Designer:Ryuichi Nakagawa
Assistant Stage Director:Yuko Tezuka
Hair Designer:Emi Tanaka
Audio Designer:Hideo Sato
Stage Manager:Hiroshi Koizumi
Libretto Transration:Nobuaki Tanaka
Orchestra:New Japan Philharmonic
Chorus:C.Village Singers
Children Chorus:Puppy Chorus Club
Ebina boys and girls Chorus
Children Chorus Trainer:Makiko Momiyama

<CAST>
Hänsel:Akiko Goke
Gretel:Sara Kobayashi
Peter(Father):Masaki Ikeda
Gertrud(Mother):Asami Fujii
Die Knusperhexe:Kazuhiro Tsunoda
Sandmännchen/Taumännchen:Emi Miyachi

<DANCER>
Mai Kubota, Takashi Kumagai, Risa Saeki, Mao Jintoku, Akinori Suzuki, Nana Suzuki,
Chiko Deguchi, Noritake Nagasawa, Rei Hanashima, Miki Furusawa, Yukiko Matsumoto,
Yukio Miyahara, Rei Yashiro, Ree