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桐畑奈央帰国記念演奏会 リコーダーで奏でるナポリと南イタリアの原風景|大河内文恵

桐畑奈央帰国記念演奏会 リコーダーで奏でるナポリと南イタリアの原風景
Musical Journey with the Recorder
—Nostalgic landscapes of Naples and Southern Italy

 

2020年2月28日 近江楽堂
2020/2/28 Oumi-Gakudo
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 福岡恵/写真提供: 桐畑奈央

<演奏>        →foreign language
古楽アンサンブル イル メルロ:
桐畑奈央(リコーダー)
小野綾子(ソプラノ)
上羽剛史(チェンバロ)
ゲスト:
懸田貴嗣(バロックチェロ)

<曲目>
A. ファルコニエーリ:甘き旋律
L. レオ:リコーダーソナタ 第3番
N. ポルポラ:カンタータ “どこを見廻しても”
F. ドゥランテ:パルティメント ヘ短調
D. スカルラッティ:ソナタ ヘ短調 K239
G. A. パンドルフィ・メアッリ:ソナタ「ラ チェスタ」
~休憩~
G. テッデ:リパルティータ
S. ディンディア:“それは本当に私のせいだろう” “ああ、愛らしい瞳”
F. マンチーニ:リコーダーソナタ 第2番
A. スカルラッティ:カンタータ “私は愛、そうあなたの為に身を焦がす”
~アンコール~
マンチーニ:アリア“私に心を開いてください”

 

アンサンブル「イル・メルロ」はミラノ市立音楽院で同時期に学んだ桐畑、小野、上羽が結成した団体で、今回は同じくミラノ市立音楽院で学んだ先輩である懸田をゲストに、一足先に帰国した小野と上羽が2019年に帰国した桐畑を迎えての帰国記念演奏会となった。

桐畑が留学中に出会い惹かれていったという南イタリアのレパートリーを中心にプログラムが組まれている。2曲目のレオのリコーダーソナタでは装飾が見事で、桐畑の技量の高さが示されたが、彼女の本領が発揮されたのは次のポルポラのカンタータだった。

このカンタータでは、チェロの懸田とチェンバロの上羽の通奏低音にのって、声量たっぷりの小野の歌と対等に生き生きと吹いている桐畑が印象的だった。ソナタのような器楽的な旋律よりも、ポルポラの声楽的な旋律のほうが桐畑に合っているのだろう。それまでと違って、ここで一気に肩の力が抜けて、聴いているこちらも思わず心が躍る演奏だった。

つづく上羽のソロはドゥランテの『パルティメント』とドメニコ・スカルラッティのソナタ。パルティメントという名称は聞きなれないかもしれないが、当時ナポリの音楽院で教育用につくられたもので、数字付きの低音だけが書かれた楽譜である。そこに「対位法的にも和声的にも欠陥のない、完結した楽曲を即興で演奏すること」(パンフレットより転載)が求められた。

休憩時間にその楽譜が展示されているのを見たが、本当に通奏低音の楽譜だけ。ここから、(ある程度あらかじめ考えてあったにせよ)あのようなを音楽つくりあげてしまうというのは驚きだった。筆者はパルティメントという用語は知っていたものの、実際に聞いたことはなかったため、感慨深かった。

前半の最後はパンドルフィ・メアッリの『ラ・チェスタ』。元々はヴァイオリン・ソナタだが、リコーダーで演奏されることもある。そもそも技巧的な上に突然あらわれる転調や独特の和声展開に振り回されることなく、むしろそれを楽しんで演奏する桐畑に、演奏後大きな拍手がおくられた。

休憩後は本日唯一の現代曲。リコーダーは古楽器であると同時に現代曲も多く作曲されている楽器であり、桐畑は留学中に現代曲に出会い、リコーダーのこれまで気づかなかった可能性の発見の連続だったという。たしかに現代曲に不慣れな面も若干みられたが、これからもこのような曲に出会っていきたいと語る桐畑に頼もしさを感じ、桐谷の現代曲を今後も聞いていきたいと思ったのは筆者だけではあるまい。

ディンディアの2曲はいずれも二重唱曲で、歌唱声部の一方が桐畑のリコーダーで演奏された。やはりこういった歌の旋律を吹かせると巧い。つづくマンチーニのソナタは聴きごたえのある佳曲。演奏前にチェンバロが非常に難しいと上羽は言っていたが、何事もないように弾いていた。このあたりになると、演奏者も聴き手もノッてきているので、こうした曲は心躍らせながら楽しく聴くことができてよい。

最後はA.スカルラッティのカンタータ。こちらはディンディアの曲と違って、独唱曲でリコーダーが独奏楽器として入っているもの。スカルラッティらしい軽妙さを桐畑のリコーダーも小野の歌もよくあらわしていた。小野の声はソプラノながら低い音域に特徴があり、重めの声なのだが、この曲のような軽いもののほうがじつは合っているのではないかと思った。引き算の使い方がうまくなると表現の幅がもっと広がるように思う。

トークの途中で突然ふられた懸田がいみじくも言ったように、「初々しさ」がとくにトークの場面では多くみられたが、演奏は本格派であった。今後このアンサンブルがどのようなコンサートを展開していくのか、桐畑がどのように成長していくのか、非常に楽しみである。

(2020/3/15)

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<performers>
Il Merlo
Recorder: Nao KIRIHATA
Soprano: Ayako ONO
Cembalo: Tsuyoshi UWAHA
Violoncello: Takashi KAKETA

<program>
Andrea Falconieri: La soave melodia
Leonardo Leo: Sonata terza re minore per flauto e b.c.
Nicola Porpora: Movo il piè lo sguardo giro
Francesco Durante: Partimento in fa minore
Domenico Scarlatti: Sonata in fa minore, K239
Giovanni Antonio Pandolfi Mealli: Sonata “La Cesta”
–intermission–
Giorgio Tedde: Ripartita op. 44
D’india Sigismondo: “Colpa mia fora ben” “O leggiadri occhi”  da “Le musiche a 2 voci”
Francesco Mancini: Sonata seconda per flauto e b.c.
Alessandro Scarlatti: Ardo, è ver, per te d’amore
–Encore—
Francesco Mancini : Aria “Aprimi il petto”